【介護業界動向コラム】第21回 介護経営の新時代 生産性向上と処遇改善がつくる「持続可能な現場」
2026.03.25
今回のコラムは『令和8年3月4日 介護保険最新情報Vol.1474』と『介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会 第32回(R8.2.18)資料1-4(4)介護現場における生産性の向上等を 通じた働きやすい職場環境づくりに資する 調査研究事業 (結果概要)(案)』の資料よりまとめています。
介護業界は今、令和8年度(2026年度)という「処遇改善と生産性向上が一体で求められる経営への転換点」を迎えようとしています。今回の介護報酬改定は、令和9年度の定期改定を待たずに行われる異例の「期中改定」とされており、政府が掲げる「他職種と遜色のない処遇改善」という方針が色濃く反映されています。特に注目されているのは、単なる一律の賃上げではなく、生産性向上や連携強化などの取組を行う事業所ほど評価される仕組みが打ち出されている点です。
目次
最大で月額1.9万円程度の賃上げ効果
今回の改定では、介護従事者の処遇改善として、最大で月額1.9万円程度(約6%)の賃上げ効果が見込まれる仕組みが検討されています。
内訳としては
・月額1万円程度のベースアップ
・生産性向上や協働化に取り組む事業所への上乗せ
・定期昇給分
などが組み合わされる形となっています。
また、処遇改善の対象となる職種の考え方についても見直しが議論されており、これまで対象外とされてきた職種とのバランスについても検討が進められています。これは、地域包括ケアを支える多職種全体の処遇を底上げしていこうという流れとも言えるでしょう。
データが示す「生産性向上」の効果
「生産性向上」という言葉に対して、現場では抵抗感を持つ方も少なくありません。しかし調査研究の結果を見ると、その効果は明確に表れています。
生産性向上の取組を進めている事業所では
・月平均残業時間:約4時間
・有給休暇取得:約10日
となっており、介護業界全体平均と比較して、労働環境が改善している傾向が見られます。
さらに、テクノロジー導入を行った事業所の6割以上が「職員の身体的・精神的負担が軽減した」と回答しています。
例えば、見守り支援機器の導入によって、夜間の定期巡回を「必要な訪室」に見直すなど、業務の無駄を減らす取組が進んでいます。
つまり、生産性向上とは単なる効率化ではなく、職員が安心して働き続けられる環境づくりにもつながる取り組みと言えるのです。
上位加算「ロ」の新設
令和8年6月以降、処遇改善加算では従来の上位区分に加えて、さらに加算率の高い
・加算Ⅰロ
・加算Ⅱロ
といった新区分の創設が予定されています。
これらを算定するためには
・ケアプランデータ連携システムの活用
・生産性向上推進体制加算の算定
・社会福祉連携推進法人への参加
などの要件を満たす必要があります。
また、令和8年度については、要件をすぐに満たしていない場合でも、令和9年3月までに実施する計画を提出することで算定を認める特例措置も検討されています。
これは、事業所が変革に踏み出しやすくするための制度設計と言えるでしょう。
課題は「コスト」と「手間」
一方で、テクノロジー導入が進まない理由として多く挙げられているのが
・導入費用の負担
・ランニングコスト
・機器導入の手間
といった点です。
また、生産性向上推進体制加算(Ⅰ)への移行を阻む要因として、見守り機器の導入などの設備投資がハードルになっているという声もあります。
こうした状況を踏まえ、国は補助事業や各種支援策の活用を促しています。また、制度面でも申請書類の簡素化など、事務手続きの負担軽減が進められています。
さらに、生産性向上の取組はテクノロジーだけではありません。
調査では介護助手の活用について
・専門業務に専念できるようになった
・職員の離職防止につながった
といった効果も報告されています。
経営者に求められる「未来への投資」
処遇改善加算は、今や単なる職員への分配ではなく、事業所の経営体質を強化するための原資という側面も持っています。上位区分を算定し、その加算をベースアップに充てることは、人材確保の面でも大きな意味を持ちます。
調査によると、テクノロジー導入のきっかけの多くは管理職や経営層からの提案でした。
現場の忙しさを理由に立ち止まるのではなく、課題を整理し、小さな改善を積み重ねていくことが、結果として職員の負担軽減と経営の安定につながっていきます。
選ばれる事業所になるために
今回の制度改定は、介護現場に
・テクノロジーの活用
・業務の見直し
・法人間の連携
といった変化を促す内容となっています。
「最大月額1.9万円」という数字の背景には、
効率的で質の高いケアを実現する事業所を評価していくというメッセージがあります。
今回の改定を単なる制度対応として終わらせるのではなく、
持続可能な介護経営を実現するきっかけとして捉えてみてはいかがでしょうか。
業務の進め方を見直し、テクノロジーを味方につけることが、
職員が誇りを持って働き続けられる次世代の介護現場につながっていくはずです。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

