【介護業界動向コラム】第19回 令和8年度・報酬改定最終年度に求められる「少数精鋭」を前提にしたICT活用術
2026.01.28
人は、もう増えない。これは前提です。
ここ数年、「人が足りない」「採用が難しい」という声を、何度も聞いてきました。
ただ、令和8年度を前にして、私はこの言葉を少し言い換える必要があると感じています。
人は、もう増えません。
努力が足りないからでも、工夫が足りないからでもありません。
生産年齢人口が減っている以上、これは日本の「構造」です。だからこれからの介護経営は、「どうやって人を集めるか」よりも、「今いる人数で、どう介護を続けるか」を、冷静に設計する段階に入っています。
「少数精鋭」とは、「個人の高い能力」を指すのではなく、「普通の人たちが、普通の頑張りで、少人数でも回せる仕組み」と捉えています。
令和8年度は、「頑張り」を評価する年ではありません
令和6年度、7年度は、ICT導入や生産性向上に「取り組んでいるか」が問われました。
一方で、令和8年度は違います。
最終年度に問われるのは、もっとシンプルな結果です。
- 少ない人数でも、現場が回っているか
- 特定の職員の「献身」に依存していないか
- 夜勤や記録が、仕組みとして軽くなっているか
- 人が減っても、サービスの質が落ちていないか
ここが、厳しく見られます。
ICTは、現場を「楽」にするものではなく、「楽(らく)」に続けられる形をつくるものです。
ICTという言葉を聞くと、
「業務が効率化される」「負担が減る」という説明がされがちです。
ただ、私自身は少し違う捉え方をしています。
ICTは、人の頑張りを前提にしないための仕組みだと思っています。
一人ひとりの判断力や気配りに頼り切る現場は、誰かが欠けた瞬間に瓦解します。ICTは、個人の能力を無理に引き上げるためのものではなく、人が消耗しないように、「判断」や「確認」を助けてくれる道具です。
記録は「早く書けるか」より「迷わないか」
記録業務は、少ない人数の現場ほど重くのしかかります。
ここで大切なのは、入力スピードを競うことではありません。
- どこに書くか迷わない
- 何を書けばいいか迷わない
- 誰に確認すればいいか迷わない
この「迷い」を減らせているかどうか。
スマートフォン入力や音声入力は、そのための手段であって、目的ではありません。
「迷う時間」を削ることこそが、少数精鋭を支える条件です。
見守りは「人を減らすため」ではなく「判断を後回しにしないため」
見守りセンサーについても、誤解されている場面をよく見かけます。
人員配置を減らすための道具、夜勤を一人にするための道具、と思われがちです。
でも実際は、少し違います。
見守りは、少ない人数でも、根拠を持って動くための仕組みです。
-
「何も起きていない」ことが、離れた場所で分かる。
- 「起きてから」ではなく、「起きる前」に動ける。
この「情報の先回り」が、夜勤を「耐え忍ぶ仕事」から「コントロールできる仕事」に変えていきます。
少数精鋭を支えるのは、ベテランの背中ではなく「法人の型」です。
これからの時代、ベテランの「背中」を見て育つことに頼り切っている現場は、その背中がいなくなった瞬間に、立ち行かなくなります。
だからこそ必要なのが、『法人としての“型”』です。
- この法人では、こう記録する
- こう判断する
- こう引き継ぐ
ICTは、この「型」を固定するために使います。人が変わっても、経験年数が違っても、最低限の質が保てる。それが、少数精鋭を成立させる唯一の道です。
ICTは、人を減らすためではなく、人を守るためにある」
最後に、経営者の方にお伝えしたいことがあります。人を増やせない時代だからこそ、「今いる人を、すり減らさずに守れるか」が、経営の責任になります。
ICTは、補助金を取るための道具でも、流行に乗るためのものでもありません。
少ない人数でも、介護という仕事を誇りを持って続けられる形をつくるための「投資」です。
令和8年度、覚悟が問われるのはICTの導入数ではありません。それを経営の設計図にどう組み込んだか。
その一点です。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

