【介護業界動向コラム】第12回 介護ICT活用の1年を振り返り、次なるステップへ
2025.06.25

第12回となる今回は、1年間の本連載を振り返り、介護現場におけるICT活用の現在地について総括するとともに、今後のコラムでどういった情報を発信していくかの一端をお伝えします。
この1年間、介護業界は大きな変化の渦中にあり、特に、令和6年度介護報酬改定は、介護の生産性向上とICT活用を事業継続における喫緊の課題として明確に位置づけました。本連載は、こうした時代の要請に応え、介護現場の皆様がICTを活用する一助となることを目指してスタートしたものです。
まず、第1回「令和6年度介護報酬改定における介護の生産性向上とICTの重要性」では、改定のポイントとICTが果たす役割の大きさを確認しました。続く第2回「生産性向上委員会の設置とその背景」では、介護における「生産性向上」の真の意味、すなわち「労働力不足の中でも質の高いケアを届け続ける」という目的を共有し、その実現に向けた委員会の重要性を解説しました。そして、ICT導入のハードルを下げる第10回「ICT導入における補助金の活用」では、各種支援制度の概要や申請のポイントをご紹介し、具体的な行動を後押しする情報提供を心がけました。
制度理解の先には、具体的なツールの活用があります。第3回「介護記録のICT化」では、業務効率化の第一歩となる介護記録ソフトの選定ポイントを、第4回「見守り支援機器について」では、利用者の安全と職員負担軽減に繋がる見守り機器の種類と導入時の注意点を詳述しました。また、第5回「インカム・ビジネスチャットについて」では、コミュニケーションを円滑にするツールの有効性を、第7回「バックオフィス業務について」では、労務管理や書類管理といった間接業務の効率化に貢献するICTツールをご紹介しました。
しかし、どんなに優れたツールも、それを使いこなす環境がなければ価値を発揮できません。第6回「通信環境(モバイル端末、ネットワーク環境設備)について」では、ICT機器を安定稼働させるためのインフラの重要性を説きました。そして、第8回・第9回「介護事業者におけるセキュリティ対策の重要性(前編・後編)」では、個人情報を扱う介護事業者にとって避けて通れないセキュリティ対策の考え方と具体的な手法を、第11回「ICTを活用するための体制づくりと職員教育」では、ICT導入を成功させるための組織的な取り組み、特に職員の苦手意識の払拭や教育体制の重要性についてお伝えしました。
一方、現場では依然として導入や運用で躓くケースが少なくありません。補助金で介護テクノロジー導入と併せてコンサルティング会社等による業務改善支援が必須になっている背景には、事業所での課題分析や計画が不十分であるために、補助金を使ってICTを導入したにも関わらず効果が出ないということが全国で発生している状況があります。この状況を乗り越えていくためには、ただ専門家の支援を受けるだけではなく、経営層はもちろん、現場の職員一人ひとりが「なぜICTが必要なのか」を理解し、主体的に関わっていくことが必要です。第2回で触れたように、生産性向上委員会はその議論の場となり、多職種が連携して知恵を出し合う姿勢が求められます。
最後に、次回以降のコラムでは以上を土台とし、より「実践的」かつ「応用的」な内容へとステップアップしていきたいと考えています。介護を取り巻く環境は、今後も変化し続けるでしょう。しかし、どのような変化の中にあっても、質の高いケアを提供し続けるという使命は変わりません。そのために、ICTという強力なツールをいかに活用していくか。2年目も引き続き皆様に役立つ情報をお届けいたします。

竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。