【医療業界動向コラム】第144回 骨太の方針2025を読む

2025.06.24

令和7年6月13日、第8回経済財政諮問会議にて骨太の方針2025(案)が示され、閣議決定された。「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ、という原案にはなかった副題がつけられている(図1)。医療分野に焦点を当てて、その内容と今後の動きについて確認をしていきたい。

図1_骨太の方針2025(※画像クリックで拡大表示)

公定価格の引上げが意味することと新たな地域医療構想

令和8年度診療報酬改定に向け、公定価格の引上げを通じた処遇改善を明記している。コストカット型からの転換とのことだが、保険料負担の在り方も踏まえ、令和8年度診療報酬改定は従来以上にメリハリの効いた内容になるのではないかと想像する。

具体的には、高度急性期・急性期などで医療の集約化が必要な領域には様々なコストも加味した手厚い評価(DPCの高度化及び地域包括医療病棟への転換促進)が考えられる。その一方でこれから議論・検討される慢性期入院等における宿直医を配置しない医療機関への遠隔業務などについては宿直医を配置しない医療機関では評価を引き下げ、遠隔支援する基幹病院等は評価を引き上げるなども考えられるのではないかと個人的に想像する。議論はまだこれからだ。

病床削減については具体的な数値目標は盛り込まれず、次のように脚注で解説されている。

「人口減少等により不要となると推定される一般病床・療養病床・精神病床といった病床について、地域の実情を踏まえた調査を行った上で、2年後の新たな地域医療構想に向けて、不可逆的な措置を講じつつ、調査を踏まえて次の地域医療構想までに削減を図る。」

医療費適正化の一環としてのOTC類似薬の自己負担の見直し、地域フォーミュラリの普及、リフィル処方箋の促進など

OTC類似薬の患者自己負担についても政治の世界で活発にやり取りが行われているが、骨太の方針2025には薬剤自己負担について検討することが明記された。あわせて、バイオシミラーの使用促進、地域フォーミュラリの普及についても明記されている。バイオシミラーについては、昨年10月から始まっている後発医薬品のある長期収載品の選定療養の制度では対象に入っていないものの、院外処方割合が高まっていることがわかっているため、次回改定では対象に加えられる可能性が高いと思われる。

地域フォーミュラリについては診療報酬というよりは保険者努力支援制度、すなわち保険者による医療費適正化の取組での評価となることが濃厚だ。

リフィル処方箋の普及促進についても明記されるとともに、保険外併用療養の拡大、さらには保険外診療をカバーする民間保険の開発などと踏み込んだ記載もある。リフィル処方箋については、今年度中にも各都道府県で目標値が設定されることとなっている。リフィル処方については最近200床以上病院における外来医師の負担軽減に大いに効果を発揮しているケースをよく耳にする(図2)。医療機関側の都合だけではなく、患者の状況が安定していること・理解があることが前提だ。

図2_リフィル処方箋の活用(※画像クリックで拡大表示)

医療DXをさらに推進、慢性腎臓病対策に注目を

DXの推進についてもこれまで同様に引き続き明記されている。在宅領域、看護領域での展開が具体的に記載されている。標準型電子カルテについて、2025年度中に本格運用の具体的内容を示すこととされている。

また、注目を集めているものとしては慢性腎臓病対策も挙げておきたい。本文の脚注には「腎不全患者の緩和ケアを含む」とある。 今年に入ってから腎不全患者への緩和ケア拡大に関する機運が高まっている。骨太の方針に盛り込まれたことで、令和8年度診療報酬改定では何らかの対応が考えられるだろう。腹膜透析の普及、さらにはPDラストなども注目される。PDラストとは、人工透析患者が終末期になり通院が難しくなったりする場合に、腹膜透析に切り替える、というもの。腹膜透析の普及を後押しする評価の在り方にも注目をしておきたい。

骨太の方針2025が閣議決定されたことで、令和8年度診療報酬改定の議論がいよいよ本格化していく。一方で、今国会での成立が難しくなっている医療法改正(医師偏在対策、新たな地域医療構想など)は年内成立に向けて仕切り直しつつ、骨太の方針2025に記載された取組を粛々と進めていくことになる。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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