【医療業界動向コラム】第142回 医療政策の現在地から今後を読み解く
2025.06.10

令和7年5月26日、第6回経済財政諮問会議が開催され、「骨太の方針2025」の骨子案が提示された。「賃上げを起点とした成長型経済の実現」を柱としつつ、「中長期的に持続可能な経済社会の実現」として社会保障の問題を中心にまとめていくこととなる。例年通りであれば、6月上旬にも閣議決定される見通しだ。令和8年度診療報酬改定の議論を控え、医療分野についてどういった内容となるか注目が集まるところである。
ところで、今回の会議では「経済・財政新生計画進捗管理・点検・評価表 2025」もあわせて公表されている。これは、昨年末に公表された「経済・財政新生計画改革実行プログラム2024」と「EBPMアクションプラン2024」の進捗状況を示すものだ。本稿では、医療分野に焦点を当て、注目される項目の現況と見通しを確認し、医療政策の現在地と今後を予見していく。
予防・健康づくりの推進

図1_予防・健康づくりの推進①(※画像クリックで拡大表示)

図2_予防・健康づくりの推進②(※画像クリックで拡大表示)
慢性疾患の重症化対策、とりわけ透析予防に向けた糖尿病の重症化対策に多くのKPIが設定されている。令和6年度診療報酬改定では、生活習慣病管理料の見直しが大きな注目点であったが、その理由は透析予防を徹底するためだといえる。
その他、がん患者に対する「治療と仕事の両立プラン」に関するKPIも注目である。2025年までに40,000件という目標に対し、2023年時点では約29,000件という状況だ。働くことは社会保険料を負担し、厚生年金の積立にもつながるだけでなく、医療費全体に貢献することにもなる。高額療養費の自己負担上限額の議論も重要であるが、事業主の意識も合わせて考えていくべきだと感じる。
医療・福祉サービス改革

図3_医療・福祉サービス改革①(※画像クリックで拡大表示)

図4_医療・福祉サービス改革②(※画像クリックで拡大表示)

図5_医療・福祉サービス改革③(※画像クリックで拡大表示)
地域医療構想や外来医療計画など、医療提供体制に関する項目が挙げられている。ここで着目しておきたいのは「医療機器・設備等の共同利用計画のうち外来医療に係る医療提供体制の確保に関する協議の場で確認された件数」である。これは、地域の医療資源を共有し、重複検査などを防ぐことに加えて、診療所の新規開業における高額医療機器の導入に対して一定の抑制的な対応を促す意味合いもある。かかりつけ医機能報告の開始に合わせて、外来医療の協議の場も始まることから、地域における共同利用を踏まえた設備投資・環境整備を検討したいところだ。
もう一つ注目したいのは、「調剤後薬剤指導管理料1」の算定件数のKPIである。これは、糖尿病・慢性心不全患者の服薬フォローを薬局が行うことを評価する調剤報酬で、かかりつけ薬局機能のバロメーターの一つとなっている。患者減少時代においては、患者数を増やすことを考えるよりも、既存の患者の重症化予防に努めることを通じて、薬局の経営インセンティブを高めていく視点と取り組みが必要だろう。医療機関としても、今後長期処方やリフィル処方が増え、受診回数が減っていく時代に備え、服薬フォローをしてくれる薬局との連携が望ましく、重症化せずに通い続けてもらうことで経営の持続可能性を高めることになる。
医療・介護分野におけるDXの推進、最新技術の活用による生産性の向上

図6_医療・介護分野におけるDXの推進等①(※画像クリックで拡大表示)

図7_医療・介護分野におけるDXの推進等②(※画像クリックで拡大表示)
マイナ保険証や電子処方箋については、データに基づく医療・診療報酬設計の観点からも普及促進が必要である。今回は実績として表れていないが、電子カルテ情報共有サービスに注目が集まる。標準型電子カルテと合わせて、今後の医療DXの推進においては重要なものとなるため、引き続き注目していきたい項目だ。
改革したい項目とKPI、そして目標とのギャップの「差」に注目して、今後の骨太の方針と診療報酬改定の議論を引き続き確認しておきたい。

山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。
https://www.hckn.work