訪問看護ベースアップ評価料とは|算定のポイントなどを解説
2025.06.15

近年、訪問看護ステーションを運営するうえで、訪問看護ベースアップ評価料が重要性を増しています。
訪問看護ベースアップ評価料はスタッフの賃金の引き上げと密接に関係する制度であり、人材の定着率を向上するうえで意識する必要があります。
一方、訪問看護ベースアップ評価料の仕組みや申請方法などについて、よくわからないと感じる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、訪問看護ベースアップ評価料の仕組みから、算定要件・申請に必要な書類・計算方法までをわかりやすく解説します。
訪問看護ベースアップ評価料を活用する際の参考にしてください。
目次
訪問看護ベースアップ評価料とは

訪問看護ベースアップ評価料は、 2024年度の診療報酬改定で新設された、 訪問看護職員の賃上げを目的とした評価料です。
訪問看護サービスの質の向上と、 安定的なサービス提供体制の確保を目指しています。
本章では、訪問看護ベースアップ評価料の基本的な知識について解説します。
訪問看護ベースアップ評価料の仕組み
訪問看護ベースアップ評価料は、 訪問看護ステーションが実際にどれだけ職員の賃上げを実施したかに応じて算定される仕組みです。
評価料には(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があり、 それぞれ算定要件や評価の基準が異なります。
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)は、主に医療に従事する職員の賃金改善を評価するもので、 より多くのステーションが算定しやすいように設定されています。
一方、 訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)は、 より高い水準の賃上げを評価するもので、 算定要件が厳しい点が特徴です。
訪問看護ベースアップ評価料によって訪問看護ステーションは賃上げに必要な財源を確保し、 スタッフのモチベーション向上や人材確保につなげることが求められるようになりました。
もちろん、ベースアップ評価料は訪問看護ステーションだけでなく、通常の医療機関を対象にしたものがあります。
ただし、算定要件などに違いがあるため、混同しないように注意しましょう。
訪問看護ベースアップ評価料が導入された背景
訪問看護ベースアップ評価料が導入された背景には、人材不足の深刻化が影響しています。
訪問看護業界は、 人材不足が深刻化していますが、 職員の賃金水準の低さがその一因です。
また、 高齢化の進展に伴い、 訪問看護の需要がより高まっており、 サービスの質の維持・向上が重要な課題となりました。
このような状況を踏まえ、 政府は訪問看護職員の賃上げを支援し、 サービスの質の向上と安定的な提供体制の確保を図るため、 訪問看護ベースアップ評価料を導入しました。
厚生労働省は定期昇給と合わせて令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップを目標としています。
さらに厚生労働省は訪問看護ベースアップ評価料の届出を簡素化しました。
過去にはプロセスが煩雑だったために、届出をしていない医療機関がありましたが、簡素化によって活用の促進が期待されています。
訪問看護ベースアップ評価料の導入は、 訪問看護ステーションの経営改善を図りつつ、 職員の賃上げを実現できる可能性が高まる施策です。
今後も、訪問看護ステーションの運営において、訪問看護ベースアップ評価料は重大な役目を担うことが想定されます。
訪問看護ベースアップ評価料届出後に行っていただきたいこと|厚生労働省
ベースアップ加算との違い
訪問看護ベースアップ評価料と似た名称に「ベースアップ加算(介護職員ベースアップ等支援加算)」がありましたが、両者には違いがあります。
どちらも職員の賃上げを目的としたものですが、 制度の仕組みや対象となるサービスが異なる点に注意しましょう。
ベースアップ加算は介護保険サービスを対象としたもので、 訪問介護や通所介護などの事業所が算定できます。
一方、 訪問看護ベースアップ評価料は 医療保険サービスを対象としたものであり、 訪問看護ステーションが算定できます。
また、 ベースアップ加算は一律の加算率が設定されているのに対し、 訪問看護ベースアップ評価料は、 実際の賃上げ額に応じて評価料が変動する仕組みを採用していました。
なお、2024年の介護報酬改定でベースアップ加算は廃止され、介護職員処遇改善加算制度に統合されています。
訪問看護ベースアップ評価料の算定要件

訪問看護ベースアップ評価料を算定するためには、厚生労働省が定める算定要件を満たすことが不可欠です。
算定要件は、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)と訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)でそれぞれ異なります。
本章では、それぞれの算定要件について詳しく解説します。
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)の算定要件
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)の算定要件は以下のとおりです。
別に厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た訪問看護ステーションが、主として医療に従事する職員の賃金の改善を図る体制にある場合には、区分番号02の1を算定している利用者1人につき、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)として、月1回に限り算定する。
参照:令和6年度診療報酬改定【全体概要版】|厚生労働省
また、以下のような施設基準が設けられています。
- 主として医療に従事する職員が勤務していること。
- 令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給によるものを除く)を実施しなければならない。
- 2について、基本給・手当・賞与等のうち対象とする賃金項目を特定した上で行い、基本給または決まって毎月支払われる手当(以下「基本給等」という)の引上げにより改善を図ることを原則とする。
- 対象職員の基本給等を令和5年度と比較して一定水準以上引き上げた場合は、事務職員等の当該訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金の改善を行うことができること。
- 令和6年度及び令和7年度における訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金の改善に係る計画を作成していること。
- 前号の計画に基づく職員の賃金の改善に係る状況について、定期的に地方厚生局長等に報告すること。
なお、算定要件における医療従事者に該当する職種は以下のとおりです。
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定要件
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)は、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)に加えて、小規模な事業所で訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)だけでは1.2%増が達成できない場合に上乗せして算定できるものです。
具体的な算定要件は以下のとおりです。
“別に厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た訪問看護ステーションが、主として医療に従事する職員の賃金の改善を図る体制にある場合には、区分番号02の1を算定している利用者1人につき、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)として、月1回に限り算定する。”
- 訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)の届出を行っている訪問看護ステーションであること。
- 訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される金額の見込みの数が、対象職員の給与総額に当該訪問看護ステーションの利用者の数に占める医療保険制度の給付の対象となる訪問看護を受けた者の割合(以下「医療保険の利用者割合」とする)を乗じた数の1分2厘未満であること。ただし、同一月に医療保険制度と介護保険制度の給付の対象となる訪問看護を受けた者については、医療保険制度の給付による場合として取り扱うこと。
- 下記の式【C】に基づき、別表4に従い該当する区分のいずれかを届け出ること。
- 3について、「対象職員の給与総額」は、直近12か月の1月あたりの平均の数値を用いること。訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定回数の見込みは、訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合)の算定回数を用いて計算し、直近3ヵ月の1月あたりの平均の数値を用いること。また、毎年3・6・9・12月に上記の算定式により新たに算出を行い、区分に変更がある場合は地方厚生局長等に届け出ること。ただし、前回届け出た時点と比較して、直近3か月の【C】、対象職員の給与総額、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される金額の見込み並びに訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定回数の見込みのいずれの変化も1割以内である場合においては、区分の変更を行わないものとすること。
- 当該評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給によるものを除く)を実施しなければならない。ただし、令和6年度において、翌年度の賃金の改善のために繰り越しを行う場合においてはこの限りではない。
- 5について、基本給・手当・賞与等のうち対象とする賃金項目を特定した上で行い、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引上げにより改善を図ることを原則とする。
- 令和6年度及び令和7年度における当該訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金の改善に係る計画を作成していること。
- 前号の計画に基づく職員の賃金の改善に係る状況について、定期的に地方厚生局長等に報告すること。
- 対象職員が常勤換算で2人以上勤務していること。ただし、特定地域に所在する訪問看護ステーションにあっては、当該規定を満たしているものとする。
- 主として保険診療等から収入を得る訪問看護ステーションであること。
訪問看護ベースアップ評価料の申請に必要な書類

訪問看護ベースアップ評価料の申請には、いくつかの書類が必要です。
主な申請書類は以下のとおりです。
書類名 | 概要 |
訪問看護ベースアップ評価料届出書(新規・変更) | 訪問看護ベースアップ評価料の算定を開始または変更する際に提出する書類です。 |
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)専用届出様式 | 訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)のみを算定する場合に提出する書類です。 |
賃金改善計画書 | 訪問看護ベースアップ評価料による賃金改善に関する計画を記載する書類です。 |
直近3ヶ月の給与明細の写し | 申請を行う月の直近3ヵ月分の給与明細の写しです。 |
労働保険関係成立届の写し | 労働保険に加入していることを証明する書類です。 |
その他、必要に応じて追加書類 | 上記以外にも、必要に応じて追加書類の提出を求められる場合があります。 |
上記の書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
申請書類に不備があると、受理されない場合があるため、事前にしっかりと確認しておきましょう。
また、賃金改善計画書や、実際に賃金改善を行った実績を報告する書類も必要です。
これらの書類は地方厚生局のホームページからダウンロードできます。
申請書類の作成にあたっては、厚生労働省が公開している「訪問看護ベースアップ評価料届出様式作成の手引き」を参考にしましょう。
手引きには、各書類の記載方法や注意点などが詳しく解説されています。
また、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)のみを算定する場合、届出書類を簡単に作成できる新様式が公開されています。
スタッフ数が10名以下の診療所など、小規模な訪問看護ステーションでは、この新様式を活用することで、申請手続きの効率化が可能です。
訪問看護ベースアップ評価料を活用する際の留意点

訪問看護ベースアップ評価料は、訪問看護ステーションの経営改善や従業員の処遇改善につながる有効な手段ですが、活用にあたってはいくつかの留意点があります。
適切に運用するために、以下のポイントを確認しておきましょう。
- 対象者の範囲に注意する
- 賃上げの対象や金額は各施設の裁量で決定する
- 患者へ説明する準備をしておく
それぞれのポイントを把握し、適切に訪問看護ベースアップ評価料を活用する体制を整えましょう。
対象者の範囲に注意する
訪問看護ベースアップ評価料の対象者の範囲には注意してください。
訪問看護ベースアップ評価料による賃上げの対象となるのは、原則として「主として医療に従事する職員」です。
具体的には、訪問看護ステーションに勤務する看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などが該当します。
なお、事務職員や運転手など、医療に直接従事しない職員は対象外となるため注意が必要です。
賃上げの対象や金額は各施設の裁量で決定する
具体的な賃上げの対象者や金額は、各ステーションの裁量に委ねられています。
つまり、ステーションの経営状況や職員の貢献度、職種などを考慮し、柔軟に決定することが可能です。
しかし、重要なのは、賃上げの決定プロセスを明確にし、職員への十分な説明を行うことです。
評価料の趣旨や目的を共有し、透明性の高い賃上げを行うことで、職員のモチベーション向上や定着率の改善につながります。
例えば、以下のような要素を考慮して賃上げを決定することが考えられます。
職種 | 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など、職種によって貢献度や専門性が異なるため、それぞれの役割に応じた賃上げを検討します。 |
経験年数 | 経験豊富な職員は、より高度な知識やスキルを持っているため、経験年数に応じた賃上げを検討します。 |
資格 | 認定看護師や専門看護師などの資格を持つ職員は、専門性が高いため、資格取得を評価した賃上げを検討します。 |
勤務態度 | 日々の業務への取り組みや、チームワークへの貢献度などを評価し、賃上げに反映させます。 |
業績 | ステーション全体の業績向上に貢献した職員や、新規利用者の獲得に貢献した職員などを評価し、賃上げに反映させます。 |
これらの要素を総合的に考慮し、公平かつ納得感のある賃上げを行うことが、訪問看護ベースアップ評価料の効果を最大限に引き出すための鍵です。
患者へ説明する準備をしておく
患者へ説明する準備をしておくことも、訪問看護ベースアップ評価料を活用するうえで重要です。
訪問看護ベースアップ評価料は、訪問看護の利用料金に上乗せされる形で患者に負担が生じる場合があります。
そのため、利用料金に影響がおよぶ際は、患者やその家族に対して評価料の目的や内容について丁寧に説明する準備をしておくことが不可欠です。
説明の際には、以下の点を明確に伝えるようにしましょう。
- 訪問看護ベースアップ評価料が、訪問看護ステーションの職員の賃上げを目的としていること
- 賃上げによって、より質の高い訪問看護サービスを提供できるようになること
- 評価料が、訪問看護ステーションの持続的な運営を支えるために必要なものであること
上記の点を丁寧に説明することで、患者の理解と協力を得やすくなります。
また、質問や疑問に対しては、誠実かつわかりやすく答えるように心がけましょう。
説明資料を作成したり、口頭での説明に加えて書面を渡したりするなど、患者が理解しやすいように工夫することも重要です。
必要に応じて、厚生労働省の資料などを参考にしながら、説明内容を検討しましょう。

訪問看護ベースアップ評価料は、2024年度の診療報酬改定で新設された、訪問看護職員等の賃上げを目的とした評価料です。深刻な人材不足などを背景に、サービスの質の向上と安定的な提供体制の確保を目指し導入されました。この評価料は、ステーションが実際に賃上げを実施したかに応じて算定される仕組みで、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。原則として医療に従事する職員が対象です。算定には厚生労働省の定める要件を満たす必要があり、賃金改善計画の作成・報告が求められます。賃上げの対象や金額はステーションの裁量ですが、利用料金に影響がある場合は患者への丁寧な説明が不可欠です。適切に活用することで、職員のモチベーション向上や人材確保につながり、経営改善やサービス質向上に貢献する可能性のある制度です。
ベースアップ評価料の活用は訪問看護ステーションの経営を左右する

訪問看護ベースアップ評価料は、訪問看護ステーションの経営に大きな影響を与える可能性があります。
適切な活用は、職員のモチベーション向上や人材確保に役立つだけでなく、最終的にはステーションの質の向上につながります。
訪問看護ベースアップ評価料は、届け出をすることで、訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金改善を図るための制度です。
しかし、活用にあたってはいくつかの注意点があるので、本記事や厚生労働省の通知を参照しておきましょう。

監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。