訪問看護におけるBCPとは?義務化対応や作成のポイントについて解説

2025.06.22

近年、地震や台風といった自然災害、感染症のパンデミックなど、 予期せぬ事態が頻発しています。
緊急事態に備え、訪問看護ステーションが作成すべきものが「BCP(事業継続計画)」です。 

BCPは訪問看護ステーションが緊急事態に陥った際、対応の方針や具体的な対策などを記載したものです。
BCPが完備されていれば、緊急事態に陥っても訪問看護ステーションの機能を維持できる可能性が高まります。

本記事では、訪問看護におけるBCPの概要から、具体的な作成手順・作成時のポイントまでを解説します。
初めてBCPを策定する際の参考にしてください。

訪問看護におけるBCPの概要

訪問看護におけるBCP(事業継続計画)は、緊急事態が発生した場合でも訪問看護サービスを継続的に提供するための計画です。
本章では、BCPの基本的な概要について解説します。

BCPとは

BCP(Business Continuity Plan)とは、事業継続計画を指す用語です。

BCPは企業や組織が、地震や台風などの自然災害・感染症のパンデミック・システム障害・テロなどの緊急事態を想定して作成されます。
緊急事態においても事業を中断せず、または中断した場合でも速やかに復旧・継続するための計画です。

訪問看護ステーションにおいては、利用者への訪問看護サービスを継続するために、事前に策定しておくべき計画として扱われます。

BCPと災害対策マニュアルの違い

BCPと災害対策マニュアルは、どちらも緊急事態への備えですが、目的と範囲が異なります。
それぞれの違いは以下のとおりです。

項目BCP災害対策マニュアル
目的事業の継続・早期復旧災害時の応急対応
対象範囲事業全体特定の災害
期間緊急事態発生から復旧まで災害発生直後
内容事業継続のための戦略・資源配分・優先業務の特定など避難経路・安否確認・初期消火など

災害対策マニュアルは、地震や火災などの特定の災害が発生した際の初期対応に重点を置いたものです。
例えば、避難経路の確認・初期消火の手順・安否確認の方法などが記載されています。

一方、BCPは、より包括的な計画であり、災害発生後も事業を継続するためにどのような戦略を取り、どのような資源を配分し、どの業務を優先するかなどを定めます。

つまり、災害対策マニュアルは「何が起きたか」に対して「どのように対応するか」を記述するのに対し、BCPは「何が起きても」事業を継続するために「何をすべきか」を記述するものです。

BCPの作成が義務化された背景

2024年4月、介護報酬改定に伴い、BCP未策定の介護事業所に対する減算が新設されました。
これにより、実質的にBCPの策定が義務化されましたが、この背景には近年頻発する自然災害や感染症のパンデミックなど、事業継続を脅かすリスクの増大があります。

義務化の主な理由は以下のとおりです。

利用者保護の強化緊急時においても、訪問看護サービスを必要とする利用者へのサービス提供を維持するため。特に、高齢者や慢性疾患を持つ患者など、脆弱な立場にある利用者への影響を最小限に抑えることが重要です。
地域医療体制の維持訪問看護は、地域医療の一翼を担っています。緊急時においてもサービスを継続することで、地域医療体制の維持に貢献します。
事業継続性の向上BCPを策定することで、緊急時における事業継続性を高め、早期復旧を可能にします。
法令遵守介護保険法などの関連法規において、BCP策定が義務付けられたため。

BCPの義務化は、訪問看護ステーションが、社会インフラとしての責任を果たすために不可欠な措置になりました。
訪問看護ステーションにおいて、BCPの策定は不可欠な施策です。

参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

BCP未策定・不備のリスク

BCPを策定しない、または不備がある場合、訪問看護ステーションはさまざまなリスクに直面する可能性があります。

リスク詳細
利用者へのサービス停止緊急時にサービス提供が困難になり、利用者の健康と安全を脅かす可能性があります。
経営悪化事業中断が長期化し、収入が途絶えることで、経営状況が悪化する可能性があります。
職員の離職緊急時における対応の遅れや混乱により、職員のモチベーションが低下し、離職につながる可能性があります。
法的責任BCP策定義務違反として、行政指導や罰則を受ける可能性があります。
地域からの信頼失墜緊急時における対応の不備により、地域社会からの信頼を失う可能性があります。

BCPは、単なる義務ではなく、訪問看護ステーションの存続と、利用者・職員・地域社会を守るための重要な取り組みです。
BCPを策定し、定期的に見直し、訓練を実施することで、これらのリスクを軽減できます。

訪問看護のBCPの種類

訪問看護におけるBCPは、緊急時においてもサービスを継続するために、さまざまな形態で策定されます。
代表的なBCPの種類は以下のとおりです。

  • 機関型BCP
  • 連携型BCP
  • 地域BCP

それぞれ順番に解説します。

機関型BCP

機関型BCPとは、個々の訪問看護ステーションが単独で策定するBCPのことです。
自事業所の資源・特性やリスクアセスメントの結果に基づいて、具体的な行動計画を定めます。

機関型BCPは、自事業所の事業継続能力を高めることを目的とした、もっとも基本的なBCPの形態です。

機関型BCPでは、以下のような項目を定めることが一般的です。

  • 緊急時における指揮命令系統
  • 職員の安否確認方法
  • 代替要員の確保
  • 通信手段の確保
  • 重要書類のバックアップ
  • 利用者への連絡体制
  • サービスの優先順位
  • 事業再開の手順

機関型BCPは、自事業所の状況に合わせて柔軟に策定できる一方、資源が限られている中小規模のステーションでは、十分な対策を講じることが難しい場合があります。

連携型BCP

連携型BCPとは、複数の訪問看護ステーションが連携して策定するBCPのことです。
災害時など、単独のステーションでは対応が困難な状況において、互いに資源を融通し合い、サービス提供を継続することを目的としています。

連携型BCPでは、以下のような項目を定めることが一般的です。

  • 連携するステーション間の役割分担
  • 資源の共有方法(人員・車両・物品など)
  • 情報共有の体制
  • 合同訓練の実施
  • 緊急連絡網の整備

連携型BCPは、複数のステーションが協力することで、より強固な事業継続体制を構築できる一方、連携体制の構築や維持に手間がかかる場合があります。

地域BCP

地域BCPとは、地域の医療・介護関係機関に加え、行政や消防などが連携して策定するBCPのことです。
地域全体の医療・介護サービスの維持を目的としており、訪問看護ステーションも地域BCPの一員として、役割を担うことが期待されます。

地域BCPは、大規模災害時などで地域全体が被災した場合に重要な役割を果たします。

地域BCPでは、以下のような項目を定めることが一般的です。

  • 地域の医療・介護資源の把握
  • 緊急時における医療・介護ニーズの予測
  • 医療・介護サービスの提供体制
  • 避難場所の確保
  • 物資の供給体制
  • 情報共有の仕組み

地域BCPは、地域全体の資源を活用することで、より広範囲な支援体制を構築できる一方、関係機関との連携調整に時間がかかる場合があります。

訪問看護のBCP作成手順

本章では、以下のように具体的なBCPの作成手順をステップごとに解説します。

  • 現状分析とBCP策定チームの立ち上げ
  • リスクシナリオの想定と対応策の検討
  • BCPの作成・訓練・見直し
  • 業務影響の分析
  • 事業継続の戦略策定

それぞれのプロセスを把握し、最適なBCPを作成しましょう。

現状分析とBCP策定チームの立ち上げ

BCP作成の第一歩は、現状分析です。

訪問看護ステーションがどのような状況にあるのか、どのようなリスクにさらされているのかを把握します。

さらに、現状分析を進めながらBCP策定を主導するチームを立ち上げましょう。
チームは管理者だけでなく、看護師や事務職員など、さまざまな職種のスタッフをメンバーにすることが重要です。

多様な視点を確保することにより、より実効性の高いBCPを作成できます。

リスクシナリオの想定と対応策の検討

次に、起こりうるリスクシナリオを想定し、それぞれのシナリオに対する対応策を検討します。
リスクシナリオは、自然災害だけでなく、感染症の流行・事故・システム障害なども考慮しましょう。

例えば、以下のようなシナリオです。


状況
想定されるリスク対応策
地震建物倒壊、ライフラインの停止交通網の遮断職員の出勤困難安否確認方法の確立
非常用備蓄品の準備
代替交通手段の確保
近隣施設との連携
感染症の流行職員の感染による人員不足利用者の感染リスク訪問制限感染予防策の徹底
感染者発生時の対応
フローオンライン診療の導入
代替要員の確保
台風・水害交通網の遮断停電通信障害訪問ルートの確認や変更
非常用電源の確保
通信手段の確保避難場所の確保

対応策を検討する際は、それぞれ具体的に検討しましょう。
リスクシナリオを想定したら、それぞれのシナリオに優先順位を付け、スタッフに共有します。

BCPの作成・訓練・見直し

リスクシナリオと対応策の検討結果をもとに、BCPを作成します。
作成したBCPは、机上訓練や実地訓練を通して、その有効性を検証し、定期的に見直すことが重要です。

このプロセスは以下のように実施します。

手順内容備考
1. BCPの作成現状分析の結果、リスクシナリオ、対応策などを文書化BCP発動基準、責任者の連絡先などを明記利用者様への情報提供方法を定める誰が見てもわかりやすく、実行しやすい内容にしましょう。
2. 訓練の実施机上訓練:BCPの内容を理解するための研修やシミュレーション
実地訓練:実際に災害が発生した状況を想定した訓練
訓練を通して、BCPの課題や改善点を見つけ出しましょう。
3. BCPの見直し定期的な見直し(年1回以上)訓練結果や災害発生状況などを踏まえた改善組織変更や法改正などへの対応BCPは、常に最新の状態に保つことが重要です。

業務影響の分析

BCPを策定する際は、業務影響の分析も実施しましょう。

BCP策定においては、緊急事態が発生した場合に、どの業務がどの程度影響を受けるかを分析することが重要です。
業務影響分析を行うことで、優先的に復旧すべき業務を特定し、資源を効率的に配分できます。

事業継続の戦略策定

業務影響分析の結果を踏まえ、事業を継続するための戦略を策定します。

事業継続戦略では、優先的に復旧すべき業務を特定し、そのための資源をどのように確保・配分するかを具体的に定めます。
資源の配分を検討する際は、業務の洗い出しや、緊急時の評価などを実施し、必要な資源量をあらかじめ把握することが重要です。

訪問看護のBCPを作成する際のポイント

訪問看護のBCPは、利用者と職員の安全を確保し、緊急時にもサービスを継続するために重要です。
ただし、ポイントを押さえて作成しておかないと、BCPの実効性が低下する恐れがあります。

BCPを作成する際は、以下のポイントを意識しましょう。

  • 実現可能な内容にする
  • テンプレートを活用する
  • 内容を整理して確認しやすい状態にする
  • 最初から完璧を目指さない

それぞれのポイントについて解説するので、ぜひ参考にしてください。

実現可能な内容にする

BCPは、実際に実行できる計画でなければ意味がありません。
現実離れした目標や、リソースが不足している状況を無視した計画は、いざという時に機能しない可能性があります。

以下の点を考慮して、実現可能な内容にしましょう。

人員確保災害時や感染症流行時に出勤できる人員を具体的に想定し、その人数で対応可能な業務範囲を明確にする。
代替手段の確保通常の訪問手段が使えない場合に備え、代替の移動手段や連絡手段を確保する。
資源の備蓄感染症対策に必要なマスク・消毒液・防護具などを備蓄する。また、非常食や飲料水なども必要に応じて備蓄する。
訓練の実施BCPの内容を職員に周知し、定期的に訓練を実施することで、計画の実行可能性を高める。

机上での計画だけでなく、実際に動いてみることで、見えてくる課題もあります。
訓練を通して、計画の改善点を見つけ、より実効性の高いBCPにしていきましょう。

テンプレートを活用する

テンプレートを活用すれば、BCPをスピーディーに作成できます。

BCPの作成は、ゼロからすべてを考え出す必要はありません。
厚生労働省や各都道府県、訪問看護関連団体などが、訪問看護ステーション向けのBCPテンプレートや作成マニュアルを提供しています。

これらのテンプレートを活用することで、効率的にBCPを作成できます。

ただし、テンプレートはあくまでも雛形です。
自施設の状況に合わせて、内容を修正・加筆する必要があります。

例えば、地域の特性や利用者様のニーズ、ステーションの規模などを考慮して、より具体的な計画に落とし込みましょう。
参考資料として、全国訪問看護事業協会もBCP策定について情報を公開しています。

内容を整理して確認しやすい状態にする

BCPは、緊急時に迅速に対応するためにも、内容を整理し、誰でも確認しやすい状態にしておく必要があります。
以下の点に注意して、BCPを整理しましょう。

文書の構造化BCPの全体像を把握しやすいように、目次や索引を付ける。
情報の階層化重要な情報から順に記載し、必要に応じて詳細情報を補足する。
図表の活用フローチャートや組織図などを用いて、情報を視覚的に表現する。
連絡先の明記緊急連絡先(管理者・職員・関係機関など)をリスト化し、すぐに連絡が取れるようにする。
保管場所の明示BCPの保管場所を明示し、職員全員がアクセスできるようにする。

また、BCPは紙媒体だけでなく、電子データとしても保管しておくと便利です。
クラウドストレージなどを活用すれば、場所を選ばずにBCPを確認できます。

ただし、停電やシステム障害など、インターネットが利用できない状況も想定して、紙媒体も用意しておきましょう。

最初から完璧を目指さない

BCPを作成する際は、最初から完璧を目指さないように心がけましょう。

BCPは、一度作成したら終わりではありません。
社会情勢や法規制の変化、ステーションの状況の変化などに応じて、定期的に見直しを行う必要があります。

最初から完璧なBCPを目指すのではなく、まずはできる範囲で作成し、運用しながら改善していく姿勢が大切です。

BCPは、継続的に改善していくことで、より実効性の高い計画になります。
完璧主義にならず、柔軟な姿勢でBCPに取り組んでいきましょう。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

近年、地震や台風といった自然災害、感染症のパンデミックなど、予期せぬ事態が頻発しており、訪問看護ステーションにおけるBCP(事業継続計画)策定の必要性は、かつてなく高まっています。BCPは単なる義務ではなく、サービスを必要とする利用者様の保護強化、地域医療体制の維持、そして訪問看護ステーション自身の事業継続性の向上といった重要な経営課題です。策定にあたっては、自施設の状況に基づいた実現可能な内容とし、リスクシナリオの想定と対応策の検討を丁寧に行うことが重要です。また、BCPは一度策定して終わりではなく、定期的な訓練と見直しを通じて、常に実効性のあるものにアップデートしていく継続的な取り組みが求められます。完璧を目指さずとも、まずは着実に一歩を踏み出し、BCPを通じて、いかなる状況でも質の高いサービスを提供できる体制を構築していきましょう。

BCP策定で訪問看護ステーションの利用者と職員を守ろう

訪問看護ステーションにおけるBCPは、利用者と職員の安全を守り、地域社会への貢献を続けるために不可欠なものです。

地域社会への貢献を続けるためにも、必ず適切なプロセスでBCPを作成しましょう。

必要があれば専門家やコンサルタントの支援を検討することも有効です。
本記事で解説した手順とポイントを参考に、自施設に合ったBCPを作成し、万が一の事態に備えましょう。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

訪問看護に関連するコラム

資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら
検討に役立つ資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら