意思決定支援ガイドラインとは|全5種類を解説
2026.04.26
日々の業務で「利用者の意思を最大限尊重したい」と願いながらも、具体的な支援方法に悩むことは少なくありません。
特に、判断能力が低下した方や複雑な状況にある方への対応では、倫理的なジレンマに直面することも珍しくないでしょう。
そこで本記事では、厚生労働省などが定める主要な意思決定支援ガイドラインについて解説します。
各ガイドラインの目的や要点を理解することで、現場での具体的な支援プロセスが明確になり、自信を持って利用者と向き合えるようになります。
目次
意思決定支援ガイドラインとは

意思決定支援とは、年齢や障がいの有無にかかわらず、誰もが自分らしい生活を送るために行う自己決定を支えるプロセスです。
利用者本人の価値観や希望を深く理解し、情報の提供や環境の調整を通じて、利用者自身の選択と決定を尊重する一連の関わりを指します。
医療や福祉の現場では、専門職が良かれと思って下した判断が、結果的に利用者の意に沿わないものになる危険性を常に孕んでいるものです。
これを踏まえ、支援の客観性と倫理性を担保し、誰が支援しても一定の質を保てるように、国や関連機関が作成したものが意思決定支援ガイドラインです。
意思決定支援ガイドラインは、支援者が立ち返るべき基本原則や具体的な手順を示しており、複雑な場面での判断の拠り所となります。
主要ガイドラインの種類
意思決定支援に関するガイドラインは、対象となる方や場面に応じて複数作成されています。
代表的なものは、以下の5つです。
| ガイドライン名 | 主な対象者 | 主な場面 |
|---|---|---|
| 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン | 認知症の人 | 日常生活・財産管理・介護サービスの選択など |
| 障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン | 障がいのある人 | 福祉サービスの利用計画作成・地域生活への移行など |
| 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン | 人生の最終段階を迎える人 | 延命治療の選択・療養場所の決定(ACP)など |
| 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン | 身寄りがなく判断能力が不十分な人 | 入院同意・手術や検査の選択・治療方針の決定など |
| 意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン | 成年後見制度の対象者 | 財産管理・身上保護に関する後見事務全般 |
それぞれのガイドラインは独立しているように見えますが、「利用者の自己決定権の尊重」といった理念を共有しています。
特に、支援者が一方的に何かを決定するのではなく、利用者が自身の意思で選択し、決定することを尊重するといった考え方が根底にあります。
すべての支援は、この理念に基づいて行われるべきであり、利用者の意向を最大限に尊重することが重要です。
多職種で成り立つ支援チームがガイドラインを理解することで、医療・福祉・教育など、異なる分野の知識や視点を総合的に活用し、利用者の状況に合わせたより深く、包括的な支援が可能です。
異なる分野の連携を強化し、多角的な視点から利用者をサポートすることで、より効果的な支援を提供できます。
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」は、認知症の利用者が、自分らしい生活を送り、社会の一員として尊重されることを支える重要な指針です。
このガイドラインは、認知症の特性を理解し、本人の意思を尊重することを最優先としています。
日々の生活における選択から、医療や介護に関する重要な決定まで、あらゆる場面で本人を支援する方法を提示しています。
支援者は、本人の過去の意思や価値観、現在の状況を丁寧に把握し、十分な情報提供と理解を促すことを意識しましょう。
また、家族や医療・介護関係者など、さまざまな関係者との連携も重要です。
参照:認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン|厚生労働省
目的
「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」は、認知症の人が意思決定能力の低下を理由に、その権利を不当に制限されることがないよう支援することを目的としています。
たとえ認知機能が低下しても、残された能力を最大限に活用し、尊厳ある生活を継続できるよう支えるための基本姿勢や配慮事項をまとめています。
支援者が本人の意思を推定するのではなく、利用者との対話を通じて意思を確認するプロセスを重視しています。
要旨
ガイドラインでは、意思決定支援のプロセスを「意思形成支援」「意思表明支援」「意思実現支援」の3段階で捉えています。
それぞれの意味は以下のとおりです。
| 意思形成支援 | 本人が意思を形成することの支援 |
| 意思表明支援 | 本人が意思を表明することの支援 |
| 意思実現支援 | 本人が意思を実現するための支援 |
上記を踏まえたうえで、利用者の過去の言動や価値観を理解し、非言語的なサインも丁寧に読み取ることが求められます。
障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン

「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」は、障がいのある方が、自分らしい生活を送るために、福祉サービスを主体的に選択・利用することを支援するための指針です。
障がいのある方でも、サービス内容や利用方法を十分に理解し、自分の希望やニーズに合ったサービスを選べるよう、支援者がどのようなサポートをすべきかを詳しく解説しています。
このガイドラインは、情報提供の仕方・コミュニケーションの取り方・利用者の意向を尊重する姿勢など、具体的な支援方法を提示しています。
また、家族や関係機関との連携の重要性も強調し、利用者を中心とした包括的な支援体制の構築を目指している点も特徴です。
参照:障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインについて|厚生労働省
目的
障害者総合支援法の理念に基づき、障がいのある利用者の自己決定権を尊重し、サービス提供のあらゆる場面でその意思が反映されることを目指します。
支援者が本人の意思決定を代行するのではなく、本人が自ら決定できるよう必要な情報や選択肢を提供し、そのプロセスを支えることを目的としています。
特に、個別支援計画の作成など、利用者の生活に直結する場面での活用が想定されているガイドラインです。
要旨
このガイドラインでは、意思決定支援を標準的なプロセスとして位置づけ、事業所内に「意思決定支援責任者」を置くなどの体制整備を推奨しています。
ガイドラインでは、障がいを持つ利用者の意思決定を構成する要素として以下の3点を挙げています。
| 要素 | ポイント |
|---|---|
| 本人の判断能力 | 意思決定を進める際、利用者の判断能力の程度についての慎重なアセスメントが重要になる。 |
| 意思決定支援が必要な場面 | 日常生活における場面・社会生活における場面で意思決定支援が必要となる。 |
| 人的・物理的環境による影響 | 人的・環境・過去の経験などの影響が意思決定に影響を与える。そのため、環境への配慮が不可欠となる。 |
本人の判断能力を確認するだけでなく、なるべく本人の意思決定を妨げないような状況を整えることも重要です。
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、終末期を迎える患者が、自分自身の価値観や希望に沿った医療・ケアを受けられるように、意思決定を支援するために作成されました。
このガイドラインは、患者本人が、医療従事者や家族と十分に話し合い、理解を深めながら、納得のいく医療・ケアの方針を決定することを目的としています。
患者の意思を尊重し、痛みや苦痛を和らげる緩和ケアの重要性・延命治療の選択肢・尊厳を保ちながら最期を迎えるための環境づくりなど、多岐にわたる情報を提供している点が特徴です。
患者が主体的に人生の最終段階における医療・ケアを選択し、自分らしい生き方をまっとうできるよう、サポートすることを重視しています。
参照:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン|厚生労働省
目的
本人の意思が不明なまま、医療者側の判断だけで延命治療などが進められる事態を避けることを主な目的としています。
判断能力があるうちから、本人と家族に加え、医療・ケアチームが将来の医療・ケアについて話し合うプロセスを推進しています。
当事者同士の対話を通じて、本人の価値観や人生観を共有し、万が一の事態でも本人の意思が尊重される体制を築くことを目指しているのが特徴です。
要旨
ガイドラインでは、医療・ケアの方針決定は、医師などの医療従事者から適切な情報提供と説明がなされたうえで、患者本人の意思を基本に行われるべきだと明記しています。
特に、以下の確認は非常に重要です。
- どのような生き方を大切にしたいか
- どのような医療やケアを受けたいか、受けたくないか
- 苦痛を和らげるためのケア(緩和ケア)に関する希望
- 療養生活を送りたい場所(自宅・病院・施設など)
- 信頼して意思決定を託せる人は誰か
本人が意思を表明できない場合は、家族などが意思を推定し、それを基に医療・ケアチームと話し合って方針を決定します。
話し合った内容は文書にまとめ、関係者間で共有することが推奨されています。
身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

身寄りがなく、意思決定能力が不十分な方が適切な医療を受けられるようにするためのガイドラインです。
例えば、医療機関・福祉関係者・地域包括支援センターなどが連携し、身寄りがない方の生活状況・健康状態・ニーズを総合的に評価します。
評価に基づき、医療計画の策定・成年後見制度の利用支援・日常生活のサポート体制の構築など、多角的な支援を行うことで本人が適切な医療を受けられる環境を整えることが可能です。
特に、医療に関する意思決定においては、本人の意向を尊重しつつ、家族や親族に代わる支援者を選定したり、第三者による意見を参考にしたりするなど、慎重なプロセスが求められます。
最終的には、本人が安心して医療を受けられる環境を整え、その人らしい生活を支援することが重要です。
参照:身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン|厚生労働省
目的
このガイドラインは、家族など頼れる人がいないために、入院や手術への同意が得られず、必要な医療が提供されない事態を防ぐことを目的としています。
利用者の意思を可能な限り確認し、もし確認が困難な場合は、利用者にとっての最善の利益を考慮したうえで、医療機関が方針決定を行えるような仕組みを整えます。
法的な問題だけでなく、倫理的な観点からも適切な対応ができるよう、支援チームの役割や合意形成のプロセスを明確にしている点が特徴です。
要旨
このガイドラインでは、身寄りがない方の意思・意向の確認や尊重を重視するだけでなく、以下のような支援についても記載しています。
- 医療・ケアチームとの連携
- 当該患者の状況に応じた介護・福祉サービスの相談
- 一部負担金の減額・免除・支払猶予や無料定額診療事業、生活困窮者
- 自立支援制度、生活保護制度等の行政サービスへの相談
- 支払い方法の相談
- 成年後見制度や日常生活自立支援事業等の権利擁護の制度の利用相談
参照:身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン|厚生労働省
意思決定支援だけでなく、最適な支援を提供するうえで重要なポイントも必ず確認しておきましょう。
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」は、成年後見人などが後見事務を行ううえで、利用者の自己決定権を最大限に尊重し、その意思に沿った支援を行うための具体的な指針を示すものです。
このガイドラインは、利用者が可能な限り自らの意思に基づいて生活できるよう、後見人などがどのような視点を持ち、どのようなプロセスを経て意思決定を支援すべきかについて、詳細に解説しています。
例えば、利用者の判断能力に応じた情報提供の方法やコミュニケーションの取り方、意思確認の際の留意点などです。
また、利用者の過去の意思や価値観・将来の希望などを把握し、最適な選択肢を共に検討していくことの重要性を強調しています。
参照:意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン|厚生労働省
目的
成年後見制度の運用が、単なる財産管理や代行決定に偏ることなく、常に利用者の意思決定を支援する視点で行われることを目的としたガイドラインです。
後見人などが利用者の意思や価値観を十分に理解し、それを後見事務に反映させるための具体的な手法や考え方を整理しています。
これにより、利用者が制度を利用しながらも、自分らしい生活を継続できるよう支援することを目指しています。
要旨
このガイドラインは、後見人などが利用者の意思決定能力を評価する際の視点や、意思形成・表明を支えるためのコミュニケーション方法などを具体的に示している点が特徴です。
利用者の意思が確認できない場合でも、これまでの生き方や価値観からその意思を推定し、できる限り尊重するよう努めることが重要です。
その際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 利用者との対話の機会を定期的・継続的に持つ
- 重要な決定事項については、複数の選択肢を用意し、わかりやすく説明する
- 支援者(ケアマネージャー・ヘルパーなど)と連携し、利用者の生活状況や意向を把握する
- 意思決定のプロセスと、その判断にいたった理由を記録に残す
上記のプロセスを意識すれば、利用者を尊重した支援を実施しやすくなります。
なお、このガイドラインには、意思決定支援や代行決定の場面で利用できる5種類のアセスメントシートが付属しています。
これらも積極的に活用しましょう。
意思決定支援ガイドラインとは、利用者本人の価値観や希望、これまでの生き方を踏まえながら、本人が自分らしい選択を行えるように支えるための基本的な考え方や手順を示した指針です。記事では、認知症の人への支援、障害福祉サービスにおける支援、人生の最終段階における医療・ケア、身寄りのない人への医療支援、成年後見制度に関わる支援など、代表的なガイドラインが取り上げられています。
これらに共通しているのは、支援者や家族が先回りして決めるのではなく、本人の思いや意思をできる限り丁寧にくみ取ることを重視している点です。現場では、本人との対話だけでなく、表情やしぐさ、これまでの生活歴、周囲の関係者から得られる情報も含めて総合的に理解する姿勢が求められます。
また、一人の判断で進めるのではなく、多職種で視点を共有しながら支援を進めることも重要です。つまり意思決定支援ガイドラインは、判断に迷いやすい場面で支援の軸を確認し、本人中心の支援を具体的に実践するためのよりどころといえます。
まとめ:利用者の意思を尊重するために意思決定支援ガイドラインを理解しよう

意思決定支援ガイドラインは、単に業務の手順を定めたマニュアルではありません。
利用者の尊厳と自己決定権を守るうえで、絶対に欠かせない知識やプロセスを学べるものです。
本記事で紹介した5つのガイドラインは、対象者や場面は異なりつつも、いずれも利用者の意思を最大限尊重することに重きを置いています。
それぞれのガイドラインを深く理解し、現場で実践していくことは、支援の質を高め、利用者との信頼関係を深めるうえで不可欠です。
なお、社会情勢の変化などに応じ、今後ガイドラインが改定される可能性は少なくありません。
改定された場合は、必ず厚生労働省のWebサイトを確認し、最新版に目を通しておきましょう。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

