SIBによる介護予防|仕組み・事例・導入のポイントなどを解説
2026.04.26
少子高齢化が進む昨今、増え続ける社会保障費や介護人材の不足は、多くの自治体や介護事業者にとって喫緊の課題です。
従来の補助金頼りの事業モデルだけでは、多様化するニーズに対応し、持続可能な仕組みを構築することが難しくなってきました。
こうした背景から、成果を重視した新しい官民連携の手法として「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)」が注目されています。
本記事では、SIBの基本的な仕組み・介護予防分野での具体的な成功事例・自身の組織で導入を検討する際のポイントなどを解説します。
目次
SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)とは?

SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)とは、社会課題を解決するための新しい官民連携の仕組みです。
「成果連動型」「官民連携」「民間資金の活用」の3点が大きな特徴です。
行政が直接事業を行うのではなく、まず民間の投資家が事業資金を提供し、その資金で民間事業者がサービスを実施します。
それから事業によってあらかじめ設定した社会的成果が達成された場合に限り、行政が成果報酬を投資家に支払う仕組みです。
SIBの仕組みと関係者の役割
SIBは、主に以下の関係者によって成り立っています。
| 関係者(ステークホルダー) | 主な役割 |
|---|---|
| 行政 | 事業目標の設定・成果測定の合意・成果に基づく報酬支払い |
| 投資家 | 事業の初期費用を資金提供(成果が出なければリターンを得られないリスクを負う) |
| 仲介者(SPCなど) | 資金調達・事業全体の管理・サービス提供事業者への支払い・関係者間の調整 |
| サービス提供事業者 | 専門的なノウハウを活かし、具体的な介護予防プログラムなどを設計・実施 |
| 第三者評価機関 | 事業の成果を客観的に評価し、行政に報告 |
上記の関係者が、それぞれの役割を連携させることで、成果を最大化する仕組みが構築されます。
この仕組みにより、行政は初期投資のリスクを抑えつつ、成果に基づいた効果的な支出が可能です。
また、投資家は社会貢献と経済的リターンの両立を目指すことができるうえ、事業者は成果達成に集中できます。
PFS(成果連動型民間委託契約方式)との違い
SIBとしばしば混同される言葉にPFS(Pay For Success)があります。
PFSは、事業の成果に応じて行政が委託料を支払う「成果連動型民間委託契約方式」の総称です。
SIBは、このPFSに該当する類型と位置づけられています。
両者のもっとも大きな違いは「民間投資家による外部からの資金調達があるか否か」です。
具体的な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | SIB | 一般的なPFS |
|---|---|---|
| 概要 | PFSの一類型 | 成果に連動して行政が報酬を支払う契約方式 |
| 資金調達 | 外部の民間投資家から調達する | サービス提供事業者が自己資金で賄うか、金融機関から融資を受ける |
| 事業リスク | 投資家が負う | サービス提供事業者が負う |
つまり、SIBはPFSの仕組みに、民間投資家が資金提供とリスク負担を担う要素が加わったモデルと捉えられます。
介護においてSIBが導入された背景
介護分野でSIBの導入が進む背景には、日本が直面する深刻な社会課題があります。
昨今の日本は超高齢社会の進展に伴い、介護給付費は増大の一途をたどっています。
限られた財源で、質の高い介護サービスを持続的に提供するためには、効率的な対策が不可欠です。
これを受け、国は疾病の発症や重症化を予防することで、医療費や介護費の抑制を目指すようになりました。
しかし、行政単独では、十分な財源や専門的なノウハウを確保することは困難です。
そのため、民間の資金やノウハウを活用するSIBへの期待が高まっています。
SIBなら、民間の創意工夫を活かした多様で効果的なサービス提供が可能です。
成果が明確に評価されるため、行政は税金をより効果的に活用でき、住民は質の高い介護予防サービスを受けられる可能性が広がります。
介護現場におけるSIB事例

SIBは、すでに全国の自治体で介護予防や健康増進の分野で活用され、成果を上げています。
本章では、代表的な以下の事例を紹介します。
- ずっと元気!プロジェクト|愛知県豊田市
- おかやまケンコー大作戦|岡山県岡山市
- 介護予防「あ・し・た」プロジェクト|大阪府堺市
それぞれの事例の概要と成果を見ていきましょう。
ずっと元気!プロジェクト|愛知県豊田市
愛知県豊田市の「ずっと元気!プロジェクト」は、介護予防SIBの代表的な成功事例として全国から注目を集めています。
大規模な民間資金を活用し、多くの高齢者の社会参加を促した点が評価されました。
参照:新たな介護予防の取り組み「ずっと元気!プロジェクト」|愛知県豊田市
令和5年度SIBを活用した介護予防事業に関する評価検証及びアンケート調査業務報告書|愛知県豊田市
「ずっと元気!プロジェクト」プロジェクト一覧|愛知県豊田市
プロジェクトの概要
「ずっと元気!プロジェクト」は、「高齢者が社会とのつながりや生きがいを持つことが介護予防に重要である」とする考えに基づいています。
多様なプログラムを提供し、参加のハードルを下げているのが特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施期間 | 2021年~2026年(5年間) |
| 対象者 | 豊田市在住の 65歳以上の高齢者 |
| プログラム内容 | 身体づくり・趣味やエンタメ・コミュニケーション・就労支援など |
成果
「ずっと元気!プロジェクト」は非常に高い成果を挙げており、有名企業をはじめとする多くの民間業者が参加することにより、多彩なプログラムの提供に成功しました。
以下の成果は、この事業モデルの有効性を示す重要な結果です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 参加者数 | 事業開始から2年目で延べ5,800人が参加し、年間参加者目標5,000人以上を達成。 |
| 要介護リスクの低減 | プログラム参加者の要介護リスクの改善効果を確認 |
| 介護給付費削減効果 | 2年間で約3.7億円の介護給付費削減効果があったと推計。 |
愛知県豊田市における官民連携の介護予防事業|花王株式会社
おかやまケンコー大作戦|岡山県岡山市
岡山県岡山市では、健康ポイント事業である「おかやまケンコー大作戦」が実施されました。
当該プロジェクトは、介護予防や健康増進を実現するうえで、健康づくりに役立つサービスを受けやすくするために健康ポイントを付与するものです。
参照:「おかやまケンコー大作戦」事業報告|岡山県岡山市
SIBを活用した健康ポイント事業「おかやまケンコー大作戦」事業報告書|岡山県岡山市
プロジェクトの概要
「おかやまケンコー大作戦」は、健康寿命延伸に寄与する運動、栄養・食生活、社会参加に関するサービスの利用促進を目的としています。
利用状況に応じてポイントを付与し、そのポイントランキングに応じて、商品券などの特典を送る方式を採用しました。
具体的には以下のような内容で実施しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施期間 | 2019年~2021年 |
| 対象者 | 35歳以上の市⺠および在勤者 |
| プログラム内容 | 運動、栄養・食生活、社会参加に関するサービスの利用状況においてポイントを付与し、ランキングに応じて商品券などの特典を送付 |
成果
事業の結果、対象者の行動変容や健康指標の改善が見られました。
これにより、将来的な医療費の抑制につながることが期待されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生活習慣改善の意識向上 | 参加者のうち、生活習慣改善の意識のある参加者の割合が目標値を達成 |
| 運動実施の変化 | 参加者は非参加者より運動実施を改善・維持する確率が高い状況を実現 |
介護予防「あ・し・た」プロジェクト|大阪府堺市
大阪府堺市では、高齢者のフレイル(加齢に伴う心身の虚弱)予防を目的とした介護予防「あ・し・た」プロジェクトが展開されました。
地域の「通いの場」を拠点に、多面的なアプローチで高齢者の健康を支援しています。
参照:介護予防「あ・し・た」プロジェクト|大阪府堺市
介護予防「あ・し・た」プロジェクト~公民連携で取組む介護予防!~|堺市健康福祉局
堺市介護予防「あ・し・た」プロジェクトの取組紹介|堺市健康福祉局
プロジェクトの概要
フレイルは要介護状態に至る前の重要な段階とされており、早期の介入が効果的です。
介護予防「あ・し・た」プロジェクトでは、高齢者が身近な場所で気軽に参加できるプログラムを提供しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施期間 | 2019年~2021年 |
| 対象者 | 要支援・要介護認定を受けていない、堺市内のおおむね65歳以上の元気高齢者 |
| プログラム内容 | 堺市内の元気高齢者に元気なままでいていただくため「あ・し・た」※を入れた多彩な介護予防に資する行動変容を促す効果的な施策の展開 ※あ=歩く(身体活動)・し=しゃべる(社会参加)・た=食べる(食生活) |
堺市介護予防「あ・し・た」プロジェクトの取組紹介|堺市健康福祉局
成果
参加者の身体機能や生活機能に明確な改善が見られ、介護予防におけるSIBの有効性が示されました。
地域に新たな交流が生まれたことも、重要な社会的成果です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 活動の継続 | プロジェクトに参加したことにより、76%の行動変容を確認 |
| 参加者層の固定化 | 無関心層からの参加者の増加を確認 |
堺市介護予防「あ・し・た」プロジェクトの取組紹介|堺市健康福祉局
SIBによる介護予防は、行政が最初に大きな財政負担を負うのではなく、民間資金や民間事業者のノウハウを活かし、あらかじめ定めた成果が確認された場合に成果連動で支払いを行う仕組みです。PDF本文では、豊田市・岡山市・堺市の事例を挙げながら、高齢者の社会参加の促進、健康づくりへの関心喚起、行動変容の後押しなど、介護予防分野での活用可能性を示しています。
また、行政にとっては税金の効果的な活用を図りやすく、住民にとっては多様な予防サービスにつながる可能性がある点も重要です。さらに、従来の補助金中心の発想だけでは対応しにくい地域課題に対し、成果を意識した官民連携を組み立てやすいことも特徴として読み取れます。
その一方で、成果指標の設定が曖昧だと評価しにくく、参加しやすい人だけに偏るおそれや、資金調達・事業継続の課題もあります。つまりSIBは、介護予防を官民連携で進める有力な方法ですが、制度設計と運用の丁寧さが成否を左右する点が要点です。導入効果を見極める視点も欠かせません。
まとめ:SIBで持続可能な介護予防を実現しよう

SIBは、増え続ける社会保障費や多様化する住民ニーズといった課題に対し、官民が連携して取り組むための画期的なツールです。
「成果の可視化」「官民の強みを活かす連携」「持続可能な仕組みの構築」で、従来の事業モデルを大きく変える可能性を秘めています。
豊田市をはじめとする成功事例は、SIBが介護予防に具体的な経済効果と社会的インパクトをもたらすことを証明しました。
もちろん、成果指標の設定や資金調達など、乗り越えるべきハードルもあります。
これからの時代に合わせた事業所運営のため、引き続き最新情報をチェックしてみてください。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

