訪問看護におけるBCPとは?義務化への対応や訓練・作成例を徹底解説

2026.03.13

2024年度より、訪問看護ステーションにおけるBCP(事業継続計画)の策定が完全義務化されました。
しかし日々の業務に追われる中で、「何から手をつければ良いかわからない」とお悩みの管理者やリーダーの方は多いでしょう。

そこでこの記事ではBCPの基本的な知識から、厚生労働省推奨のステップに沿った具体的な作成手順、すぐに使えるテンプレートまでを網羅的に解説します。

利用者と職員の安全を守り、事業所の信頼性を高めるための第一歩を踏み出しましょう。

訪問看護におけるBCPとは

BCP策定を進める前に、まずはその基本を正しく理解することが重要です。
ここでは、BCPの概要や義務化の背景など、前提となる知識をわかりやすく解説します。

BCPの概要

BCP(Business Continuity Plan)とは、日本語で「事業継続計画」と訳されます。
これは、地震や台風といった自然災害、感染症のパンデミック、システム障がいなどの緊急事態が発生した際に、事業への損害を最小限に抑えるための計画です。

訪問看護におけるBCPの目的は、主に以下の3つです。

目標具体的な内容
利用者の安全確保緊急時でも医療的ケアを途切れさせず、生命と生活の維持を図る
職員の安全確保職員自身の安全を守り、安心して働ける環境を維持することで、サービスの継続を支える
社会的責務の遂行地域の医療・介護インフラとして機能し続けることで利用者やその家族、地域社会からの信頼を維持・向上させる

BCPは単なる書類作成ではなく、事業所の根幹を守るための重要な経営戦略と位置づけられます。

BCPと災害対策マニュアルの違い

BCPと似た言葉に「災害対策マニュアル」がありますが、両者は目的と役割が明確に異なります。災害対策マニュアルは、災害発生直後の初期対応に焦点を当てた行動手順書です。

一方、BCPは初期対応を含みつつ、その後の事業継続を見据えたより広範で長期的な戦略計画です。

項目BCP(事業継続計画)災害対策マニュアル
目的事業の継続・早期復旧災害直後の初期対応(人命安全確保)
時間軸中・長期的発生直後
内容戦略、資源配分、優先業務の特定行動手順、避難経路、安否確認方法
視点「何が起きても」事業を継続する「何が起きたか」に対して行動する

つまり、災害対策マニュアルはBCPの一部として機能するものと理解しておきましょう。

BCP作成が義務化された理由

近年、大規模な自然災害や新型コロナウイルス感染症の流行などを経験し、在宅医療・介護サービスの継続性が社会的に強く求められるようになりました。
これを受け、厚生労働省は2021年度の介護報酬改定でBCP策定を努力義務とし、3年間の経過措置期間を設けました。

そして、2024年4月1日からは、すべての介護サービス事業者に対してBCPの策定が完全義務化されています。

もしBCPが未策定であったり、内容に不備があったりする場合、2025年4月からは介護報酬が減算される可能性があります。事業所の経営に影響が出ないよう、早急な対応が不可欠です。

BCPの重要性と目的

BCPの重要性は、単に義務化されたからという理由だけではありません。
緊急時において利用者の生命と健康を守り、職員の安全を確保することは、訪問看護ステーションの重要な責務です。

BCPを策定し、訓練を重ねることで、万が一の事態でも組織として冷静かつ迅速に行動できるようになります。
これにより、介護事業所は地域における医療インフラとしての役割を果たし、社会からの信頼を得られるでしょう。

BCPを作成しないリスク

BCPを策定しない場合、いくつかの重大なリスクに直面します。まず、2025年4月以降は介護報酬減算のリスクがあり、経営を圧迫する可能性があります。
また、緊急時に適切な対応ができず、利用者や職員の安全を脅かす事態になりかねません。

事業の復旧が遅れれば利用者やその家族が離れ、事業所の閉鎖につながるリスクも考えられます。

訪問看護におけるBCP作成の流れ

「何から手をつければ良いかわからない」という方のために、ここでは厚生労働省の「BCP策定の手引き 訪問看護編」で推奨する手順に沿って、BCP作成の具体的な流れを解説します。

  1. BCP策定の目的と基本方針の明確化
  2. リスクアセスメントを実施する
  3. 初期対応・緊急対応のルールを明確化する
  4. 業務への影響を分析する
  5. 業務継続につながる戦略を立てる
  6. 業務継続計画(BCP)を文書化する
  7. BCPの実行・評価により改善を繰り返す

Step1.BCP策定の目的と基本方針の明確化

まず、BCP策定の根幹となる「なぜBCPを作るのか」という目的と基本方針を定めます。「利用者の生命と生活を守る訪問看護を途切れさせない」といった明確な方針を言語化しましょう。次に、この方針を推進するためのチームを立ち上げます。

役割主な担当業務担当者例
BCP責任者全体の意思決定、最終承認、指揮命令管理者
BCPコーディネーター計画策定・推進の実務統括、各担当者との調整看護師長、リーダー
各担当リーダー情報通信、現場対応、総務・物資などの専門分野を担当各チームの担当者

チームの役割を明確にすることで、策定プロセスがスムーズに進みます。

Step2.リスクアセスメントを実施する

次に、事業所が直面する可能性のあるリスクを洗い出し、その影響度と発生頻度を評価します。まずは、地域のハザードマップを確認し、地震、水害、土砂災害などの自然災害リスクを把握しましょう。その上で、訪問看護特有のリスクも考慮に入れることが重要です。

訪問看護に特化したリスクの例

  • 特定エリアの交通網遮断による訪問困難
  • 介護ソフト(電子カルテ)へのサイバー攻撃による情報アクセス不能
  • 専門性の高い看護師の同時罹患によるサービス提供不能
  • 医療機器(人工呼吸器など)の電源喪失

リスクを「影響度」と「発生頻度」の観点から評価し、優先的に対策を講じるべきリスクを特定しましょう。

Step3.初期対応・緊急対応のルールを明確化する

リスクが発生した直後に、職員が迅速かつ的確に行動できるよう、具体的なルールを定めます。特に、職員が常に携帯できる「アクションカード」の作成は有効です。

アクションカードとは、緊急時に取るべき行動をA4一枚に簡潔にまとめたものです。

地震発生時アクションカード(例)
1. 自身の安全確保:まず自分の身を守る(頭部保護、落下物からの退避)
2. 利用者の安全確保:訪問中の場合は、利用者の安全を最優先で確保する
3. 安否報告:自身の安否を速やかに事業所へ報告する
4. 情報収集:テレビ、ラジオ、SNSなどで正確な情報を集める
5. 事業所への参集:参集基準に基づき、安全を確保した上で事業所へ向かう

カードを準備しておくことで、パニック状態でも冷静な初期対応ができます。

Step4.業務への影響を分析する

緊急時に限られたリソース(人、物、時間)の中で、どの業務を優先して継続すべきかを決定します。このプロセスを「業務影響分析(BIA)」と呼びます。

まずは、日々の業務をすべて洗い出し、以下の3つに分類しましょう。

業務分類内容
優先業務中断すると利用者の生命や事業継続に致命的な影響を与える業務人工呼吸器の管理、インスリン注射、緊急訪問、安否確認
縮小業務一時的に内容を縮小・変更しても許容される業務定期的なカンファレンス、一部の書類作成
休止業務一時的に休止しても大きな影響がない業務新規利用者の受け入れ、定例研修会

優先業務については、サービス中断から復旧までの目標時間(RTO)も具体的に設定しておきましょう。

Step5.業務継続につながる戦略を立てる

業務影響分析の結果に基づき、優先業務を継続するための具体的な戦略を策定します。

例えば、スタッフが不足した場合の応援体制や、通信が途絶えた場合の代替連絡手段などを考えましょう。特に、近隣の訪問看護ステーションと相互に協力し合う「連携型BCP」は有効な戦略です。

戦略の具体例】

  • 代替人員の確保(他事業所との応援協定、OB/OGリストの作成)
  • 備蓄品の確保(医療材料、衛生用品、食料、水、発電機など)
  • 代替通信手段の確保(衛星電話、トランシーバー、SNSの活用)
  • 情報のバックアップ(電子カルテのクラウド化)

戦略を具体的に計画しておくことで、いざというときの対応力が格段に向上します。

Step6.業務継続計画(BCP)を文書化する

これまでのステップで検討した内容を、誰が見てもわかりやすいように文書にまとめます。この際、後述する厚生労働省などのテンプレートを活用すると効率的です。

文書は、事業所の誰もがいつでも閲覧できるよう、紙媒体と電子データ(クラウド上など)の両方で保管しましょう。また、更新履歴を管理し、常に最新の状態を保つことが大切です。

Step7.BCPの実行・評価により改善を繰り返す

BCPは「作って終わり」ではありません。定期的な研修や訓練を通じて、全職員が内容を理解し、いざというときに行動できる状態にしておく必要があります。

そして、訓練で見つかった課題や、組織体制の変更などを反映させるため、少なくとも年に1回は見直しを行いましょう。

計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のPDCAサイクルを回し続けることが、BCPの実効性を高めるコツです。

訪問看護におけるBCP作成のポイント

BCPをより実用的で「使える」計画にするためのポイントは、下記の4つです。

  • 実現できる内容にする
  • 誰が見てもわかる内容に整理する
  • 完璧でなくても作成してみる
  • 作成例・テンプレートを活用する

これらの視点を取り入れることで、計画の質が大きく向上し、他事業所との差別化にもつながります。

実現できる内容にする

BCPを策定する際、理想ばかりを追い求めて実現不可能な計画を立ててしまっては意味がありません。自事業所の人員、設備、資金などのリソースを正確に把握し、身の丈に合った計画を作成することが重要です。

「これなら確実に実行できる」という現実的な内容から始め、訓練や見直しを通じて少しずつレベルアップさせていきましょう。

誰が見てもわかる内容に整理する

BCPは、緊急時に誰が見てもすぐに内容を理解し、行動に移せるものでなければなりません。専門用語を避け、図や表、イラストなどを多用して、視覚的にわかりやすい文書を心がけましょう。

特に、役割分担や連絡体制、行動フローなどは、図で示すと一目で理解しやすくなります。アクションカードのように、要点を絞ってシンプルにまとめる工夫も有効です。

完璧でなくても作成してみる

BCP策定において、最初から100点満点の完璧な計画を目指す必要はありません。むしろ、「完璧な計画ができるまで着手しない」という姿勢が危険です。

まずはテンプレートを活用して60点でも70点でも良いので、一度計画を形にしてみることが何よりも大切です。不完全な部分や課題は、その後の訓練や見直しを通じて継続的に改善しましょう。

作成例・テンプレートを活用する

ゼロからBCPを作成するのは大変な作業ですが、厚生労働省などが質の高いテンプレートを無料で公開しています。

テンプレートを活用することで、策定にかかる時間と労力を大幅に削減できます。自事業所の状況に合わせて内容をカスタマイズし、効率的に策定を進めましょう。

訪問看護におけるBCP作成例

BCP策定を効率的に進めるためには、公的機関が提供するひな形や手引きを活用することが有効です。下記のBCP作成例は法令要件を満たしており、信頼性が高く、事業所のBCPを策定する際の参考として有効です。

訪問看護におけるBCP訓練の代表例

BCPは、訓練を通じて初めて実効性を持つ計画となるため、代表的な訓練の種類と目的を確認しておきましょう。訪問看護におけるBCP訓練の代表例は、下記のとおりです。

  • 机上訓練
  • 安全確保訓練
  • 安否確認訓練
  • 代替施設への移動訓練
  • バックアップデータ復旧訓練
  • 総合訓練

机上訓練

机上訓練は、災害などのシナリオを基に、BCPに沿ってどのように対応するかをシミュレーションする訓練です。

参加者が一堂に会し、図面やホワイトボードを使いながら、それぞれの役割や意思決定プロセスを確認します。場所や時間を問わず低コストで実施でき、BCPの内容理解を深めるのに効果的です。

安全確保訓練

地震や火災の発生を想定し、実際に身を守る行動をとる訓練です。机の下に隠れる、落下物から頭を守るなど、基本的な安全確保行動を身体で覚えることを目的とします。

定期的に実施することで、いざというときに反射的に行動できるようになります。

安否確認訓練

災害発生後、職員の安否情報を迅速に集約するための訓練です。確認システムや緊急連絡網を使って、実際に連絡を取り合います。

連絡がつかない場合の代替手段や、報告ルールの確認など、実践的な課題を洗い出せます。

代替施設への移動訓練

事業所が使用不能になった場合を想定し、あらかじめ定めた代替拠点へ実際に移動してみる訓練です。移動ルートの安全性や所要時間、代替拠点の設備などを確認できます。

バックアップデータ復旧訓練

介護ソフトや電子カルテのシステム障がいを想定し、バックアップデータから情報を復旧させる手順を確認する訓練です。ICT担当者を中心に、実際の復旧プロセスをシミュレーションすることで、手順の習熟と課題の発見につながります。

総合訓練

地域の消防署や医療機関、他の介護事業所など、外部の関係機関と合同で実施する大規模な訓練です。より現実に近い状況で連携体制を確認できるため、地域全体の災害対応力を高める上で非常に有効です。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

訪問看護におけるBCP(事業継続計画)とは、地震や風水害、感染症流行などの非常時においても、利用者の生命と生活を守るために、事業所として必要な業務を継続・早期再開するための計画です。平時のマニュアルとは異なり、「誰が・いつ・何を優先するか」を事前に整理しておく点が特徴です。訪問看護では、利用者が地域に分散して生活しているため、安否確認の方法、連絡体制、代替訪問の判断、職員の安全確保などを具体的に想定することが求められます。近年は制度上もBCP整備の重要性が高まっており、自然災害編と感染症編の両面から準備することが基本とされています。さらに、職員間で内容を共有し、役割分担や行動手順を確認しておくことで、非常時の混乱を最小限に抑えることができます。事業所の規模や地域特性に応じて現実的な計画とする視点も欠かせません。利用者・家族への説明を想定しておくことも重要です。また、BCPは作成して終わりではなく、定期的な訓練や見直しを通じて、実際に動ける形にしておくことが重要です。

まとめ:訪問看護のBCPを作成して適切な運営を心がけよう

BCPは、緊急時に利用者と職員を守り、事業を継続するための重要な経営戦略です。2024年度から完全義務化されているため、未策定の場合は報酬減算のリスクがあります。

厚生労働省のステップに沿い、テンプレートを活用しながら効率的にBCPを策定しましょう。

BCPは「作って終わり」ではなく、定期的な訓練と見直しで実効性を高めることが大切です。完璧を目指す必要はありませんので、まずはテンプレートを参考に、自施設の状況に合わせた計画策定から始めてみましょう。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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