介護業界の今後はどうなる?2040年を見据えた将来性と課題をデータで徹底解説

2025.12.19

介護業界で日々の業務に励む中で、「この仕事をずっと続けていけるのだろうか」「業界の将来はどうなるのだろう」といった不安を感じたことはありませんか。

ニュースで2040年問題や深刻な人手不足といった言葉を見聞きするたびに、事業所や業界の未来について漠然とした悩みを抱えるのは当然のことです。

この記事では、介護業界特有の不安を解消し、確かな未来を描くための手順を紹介します。客観的なデータに基づき、介護業界が直面する課題から国や事業所が進める具体的な解決策、テクノロジーが拓く未来の展望までを網羅的に解説します。

この記事を最後まで読めば、事業所の将来について考えるための判断材料がきっと見つかるはずです。

介護業界の未来を揺るがす「2025年・2040年問題」とは

介護業界の今後を語る上で避けては通れないのが、2025年問題と2040年問題です。ともに日本の人口構造の変化によって引き起こされる、社会全体に関わる深刻な課題を指します。

ここでは、2025年問題と2040年問題が介護現場にどのような影響を及ぼすのか、その核心に迫ります。

要介護者の増加

日本の高齢化が急速に進行していることに伴って、介護を必要とする人の数も増え続けています。特に、人口の多い団塊の世代(1947〜1949年生まれの方々)が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、介護サービスの需要が爆発的に増加すると予測されています。

さらに2040年には、団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれの方々)が高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える見込みです。

年次総人口65歳以上の人口65歳以上の割合75歳以上の人口75歳以上の割合
2000年1億2,693万人2,201万人17.4%900万人7.1%
2024年1億2,380万人3,624万人29.3%2,078万人16.8%
2040年(推計)1億1,284万人3,928万人34.8%2,227万人19.7%

参考:高齢化の状況

上記の表が示すように、介護サービスの主な対象者となる後期高齢者の増加は避けられない現実です。

また、要介護者が増加しているにもかかわらず、日本の総人口が減少している点にも注目しなければいけません。介護ロボットの導入やICT技術を活用した業務効率化、介護人材の確保・育成などといった課題を解決しなければ、要介護者にサービスを提供するのは難しくなるでしょう。

地域包括ケアシステムの強化も重要であり、住み慣れた地域で安心して生活できるよう、医療・介護・福祉の連携を密にする必要があります。高齢者一人一人の尊厳を支え、質の高い介護サービスを提供し続けるためには、社会全体でこの問題に向き合わなければいけません。

深刻な人手不足の現実

増え続ける介護ニーズに対して、担い手である介護職員の数がまったく追いついていないのが現状です。厚生労働省が発表したデータによると、2022年時点での介護職員は約215万人ですが、2026年には約25万人増加の約240万人、2040年には約57万人増加の約272万人を確保する必要があると考えられています。

しかし、介護関係職種の有効求人倍率は2024年時点で4.08倍と、全職業よりも高い水準で推移しています。つまり、介護業界全体で慢性的な人手不足が続いていると予想できるでしょう。

この深刻な人手不足の背景には、他産業と比較して低い賃金水準、身体的・精神的に負担の大きい労働環境、仕事内容に見合った社会的評価が得られにくいといった、複合的な要因が根強く存在しています。介護業界特有の要因を解決しなければ、今後ますます人手不足は深刻化するでしょう。

参考:介護人材確保の現状について

介護施設における倒産件数の増加

介護事業所の経営難は、人手不足と物価高騰が深刻化する現代において看過できない問題です。東京商工リサーチが発表したデータによると、2024年に訪問介護事業所の倒産件数は81件(前年比14件増)、休廃業・解散が448件(同88件増)の合計529件(同102件増)でした。

特に小規模事業所への影響は大きく、倒産件数の増加は地域包括ケアシステムの維持を脅かします。

事業所の減少は、介護を必要とする高齢者やその家族にとって、サービスの選択肢が狭まることを意味します。地域全体で介護サービスを支える体制を構築し、高齢者が安心して暮らせる社会を実現するためにも官民一体となった取り組みが求められるでしょう。

参考:訪問介護事業所が消えていく*

老老介護の現実

老老介護は深刻な社会問題です。背景には高齢化の進行や核家族化、地域のつながりの希薄化など、複合的な要因が絡み合っています。老老介護は体力的な負担に加え、精神的なプレッシャーも大きく、介護者の孤立を防ぐための支援が不可欠です。

具体的には、介護保険サービスの利用促進や地域のボランティア団体の活用、介護者同士の交流の場の提供などが挙げられます。

また、介護者の心身の健康状態を定期的にチェックし、必要に応じて医療機関や相談窓口につなぐことも重要です。制度面では介護者の負担軽減のための経済的な支援や、介護ロボットの導入支援なども検討されるべきでしょう。

認認介護の問題

老老介護よりもさらに深刻なのが、認知症の人が、同じく認知症の人を介護している状態を指す認認介護です。適切な判断が難しくなるため、食事や服薬の管理ができなかったり、火の不始末などの事故につながったりする危険性が極めて高くなります。社会からの孤立も招きやすく、早急な支援が求められる課題といえるでしょう。

認認介護の場合、双方の認知機能低下により、介護者は自身の状態を客観的に把握することが困難です。そのため、周囲が異変に気づき、早期に介入することが重要です。地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなどの専門機関に相談し、適切な介護サービスの利用や医療的サポートを受けることが不可欠といえます。

また、家族や親族、近隣住民による見守り体制を構築することも、事故防止や孤立を防ぐ上で有効な手段です。介護者だけでなく、介護される人も含めた包括的な支援が求められます。

ヤングケアラーの増加

家族の中に介護や世話が必要な人がいて、そのお手伝いを日常的にしている18歳未満の子どもたちのことをヤングケアラーといいます。つまり、家事や家族の世話を担っている子どもたちのことです。

本来であれば学業や友人との交流に時間を費やすべき時期に、過度な負担を強いられることで、心身の成長や将来のキャリア形成に深刻な影響が及ぶことが懸念されています。ヤングケアラーは孤立しやすく、相談できる相手がいない場合も少なくありません。

そのため、早期発見と適切な支援が不可欠です。学校や地域社会が連携し、ヤングケアラーが抱える困難を理解した上で学習支援や心のケア、家事サポートなど、多角的な支援を提供する必要があります。

また、ヤングケアラー自身がSOSを発信しやすい環境作りや、周囲の大人たちがヤングケアラーの存在に気づき、サポートできるような啓発活動も重要です。ヤングケアラーが安心して成長できる社会を目指し、社会全体で支えていく仕組みを構築していくことが求められます。

少子高齢化が招く財源問題と制度疲弊

介護サービスの費用は利用者が支払う1〜3割の自己負担のほか、税金と40歳以上の人が納める介護保険料で賄われています。しかし、少子高齢化によって保険料を支払う現役世代(生産年齢人口)が減少し、サービスを受ける高齢者が増え続けるという構造的な問題を抱えています。

このアンバランスが介護保険財政を圧迫し、制度そのものの持続可能性を揺るがしているのです。

期間介護保険料の全国平均(月額・加重平均)
2000〜2002年2,911円
2003〜2005年3,293円
2006〜2008年4,090円
2009〜2011年4,160円
2012〜2014年4,972円
2015〜2017年5,514円
2018〜2020年5,869円
2021〜2023年6,014円
2024~現在6,225円

参考:介護保険制度をめぐる状況について

上記の表が示すように制度が始まった2000年と比較して、保険料の負担は倍以上に増加しています。今後も上昇傾向は続くとみられ、制度を維持するための抜本的な改革が急務といえます。

しかし、改革は国民の負担増につながりやすく、合意形成が難しいのが現状です。制度の持続可能性を確保するためには高齢者や現役世代、政府が一体となって真剣に議論し、痛みを分かち合う覚悟が求められています。

介護業界の今後を変えるためには人材確保が最優先

介護業界が直面する課題を克服し、持続可能な未来を築くためには、人材の確保が最優先事項です。質の高い介護サービスを提供し続けるためにも十分な数の介護職員が必要であり、課題解決のための戦略的な取り組みが求められます。

人材確保は単に人員を補充するだけでなく、業界全体の魅力を高め、多様な人材が活躍できる環境を整備することを含みます。介護業界の未来を明るく照らし、今後ますます増える要介護者のために人材確保への投資はもっとも重要だといえるでしょう。

介護職員が離職する主な理由

前述のとおり、介護業界の未来をより良くするためにも職員の人材確保が欠かせません。しかし、介護職員の人材不足は慢性化しており、課題解決のための対策は必要不可欠です。

課題を解決するためにも、介護職員の離職理由を詳しく理解することが大切です。現場で働く人々が抱えるリアルな悩みを把握することが、問題解決の第一歩となるでしょう。

人間関係に関する悩み

介護業界はチームケアという業務の特性上、密なコミュニケーションが不可欠です。しかし、価値観の相違や意見の衝突などによってストレスを生みやすい環境ともいえます。 その結果、職場内でより良い人間関係が築けずに、離職してしまう人も多いでしょう。

特に、介護職員同士の連携不足や、利用者とのコミュニケーション不足は、大きな悩みにつながります。また、上司や先輩からの指導方法に対する不満、同僚への愚痴などがエスカレートし、人間関係が悪化するケースも少なくありません。

事業所の運営体制

事業所の運営方針や理念に共感できない、というのも離職理由の一つです。 利益を優先するあまりに利用者のケアが疎かになっていると感じたり、職員の意見が経営層に届かなかったりすると、仕事へのモチベーションを維持しにくくなります。 また、人手不足による過重労働や、不公平なシフト体制なども不満の原因です。

さらに、明確なキャリアパスが示されないことも離職を検討するきっかけになります。将来的な昇進やスキルアップの見込みがないと感じると、現状維持に甘んじることなく、より成長できる環境を求めるのは自然な流れです。

また、事業所内のコミュニケーション不足も深刻な問題です。上司や同僚との連携がうまくいかず、孤立感を感じてしまうと精神的な負担が大きくなり、離職へとつながる可能性があります。

収入への不満

介護職の給与が低いことは、介護業界全体の課題です。給与水準の低さは優秀な人材の確保を困難にし、サービスの質の低下にもつながりかねません。介護職の専門性を正当に評価し、より魅力的な給与体系を構築する必要があります。

特に、経験や資格を持つ介護職員ほど、その不満は大きくなりがちです。業務内容の重さや責任の大きさと給与が見合っていないと感じる人が多く、離職を考える大きな要因となっています。

将来への不安

介護職を続ける上での将来への不安は、キャリアアップと給料の停滞に起因することが多いです。明確なキャリアパスが提示されない、資格取得が待遇に反映されないといった状況は、介護職のモチベーションを低下させ、離職を招く大きな要因となり得ます。

加えて、体力的な負担も無視できません。年齢を重ねるごとに身体的な衰えを感じ、業務を続けることが難しくなるのではないかという不安も大きくなります。また、介護業界全体の将来性、制度改正による影響、人員不足といった外部要因も、将来への不安を増幅させる要因です。

ライフスタイルの変化

結婚や出産、育児、あるいは家族の介護といったライフステージの変化も離職のきっかけとなります。特に、夜勤を含む不規則な勤務形態は、家庭との両立を困難にする場合があります。

産休・育休制度が整っていても、復帰後のサポート体制が不十分で働き続けることを諦めてしまうケースも少なくありません。加えて、配偶者の転勤に伴う引っ越しや、子どもの成長に伴う教育環境の変化も介護職員が職場を離れる理由となり得ます。

介護業界における課題解決に向けた6つの具体対策

上記のように介護事業所が抱える問題は多いですが、解決策はいくつか挙げられます。以下の具体策を参考に、職員がより働きがいを感じながら質の高い介護サービスを提供できるような体制を構築しましょう。

1.介護DXによる業務効率化を目指す

介護DXの推進は現場における急務の課題であり、テクノロジーの活用は不可欠です。記録業務の電子化や見守りセンサーの導入は、職員の負担軽減につながり、より質の高いケア提供を実現します。

さらに、介護DXはデータ分析によるケアプランの作成や、専門家によるサポート体制の構築も可能にします。これにより、地域包括ケアシステムの強化にも貢献し、高齢者が住み慣れた場所で安心して暮らせる社会の実現を目指すことが可能です。

人材不足が深刻化する介護業界において、テクノロジーの導入は職員の定着率向上にもつながり、持続可能な介護サービスの提供を支える重要な要素となります。

2.介護職員の待遇改善を行う

職員が安心して長く働き続けられるよう、給与や福利厚生といった待遇面の改善は不可欠です。国の処遇改善加算を確実に職員へ還元することはもちろん、事業所独自の資格手当や住宅手当などを設ける動きも大切な取り組みです。

さらに、待遇改善に加えて、キャリアアップ支援も重要です。研修制度の充実や資格取得支援制度を設けることで、職員のスキルアップを後押しし、モチベーション向上につなげられます。

また、定期的な面談を通して、個々のキャリアプランに合わせた目標設定をサポートすることも効果的です。ワークライフバランスを考慮した柔軟な働き方を導入することも、長期的な人材確保には不可欠といえるでしょう。育児や介護と両立しやすい勤務体制を整えることで職員の満足度を高め、定着率向上に貢献します。

3.介護職員の社会的地位向上に努める

介護職員の社会的評価を高めるためには、事業所とメディアの連携に加え、多角的なアプローチが必要です。例えば、介護現場で働く人々のインタビュー記事や動画を制作し、仕事のやりがいや成長、人間関係の温かさをリアルに伝えることは、社会の理解を深める上で有効でしょう。

また、介護技術の専門性をアピールするためにも研修制度や資格取得支援制度を充実させ、積極的に広報することも重要です。地域のお祭りやイベントに積極的に参加し、介護に関する相談コーナーを設けるなど、地域住民との交流を通じて介護への理解を促進する活動も効果的です。

これらの活動を通じて介護職のイメージアップを図り、人材確保にもつなげていくことが期待されます。

4.介護職員のメンタルケアを重視する

介護職員のメンタルヘルスをサポートすることは、離職防止とサービスの質の維持に不可欠です。そのため、以下の対策を講じることが重要です。

施策内容
サポート体制の整備定期的な面談、相談窓口の設置、ストレスチェックの実施など、職員が気軽に相談できる体制を整える
メンタルヘルス研修の実施ストレスマネジメントやコミュニケーションスキル向上を図り、職員自身がストレスに対処できるよう支援する
チーム内サポートの強化互いに支え合い、相談しやすい環境を作ることで孤立感を軽減し、安心して働ける環境を作る
コミュニケーション円滑化研修互いの価値観を理解し尊重することで、建設的な意見交換を促す
メンター制度の導入経験豊富な職員が新人をサポートし、不安や悩みを早期に解消することで職場への適応を支援する
心理的負担の把握と対応定期的な面談やアンケートを実施して職員の心理的な負担を把握し、適切な対応を行う
職場環境の改善レクリエーションやイベントを企画し、職場全体の雰囲気を明るく保つ

上記の取り組みを継続的に行うことで介護職員の心の健康を保ち、質の高いサービス提供へとつなげることが期待できます。

5.雇用形態の多様化を目指す

多様な働き方を認めることは、事業所にとっても大きなメリットがあります。優秀な人材を確保しやすくなるだけでなく、多様な視点や経験が組織にイノベーションをもたらす可能性が高まるからです。

また、時短勤務やパートタイムを活用することで、人件費の最適化にもつながります。夜勤専門のスタッフを配置すれば24時間体制のサービス提供が可能になり、顧客満足度向上にも貢献できます。

働き方改革を推進することは、従業員のエンゲージメントを高め、事業所の競争力を強化する上で不可欠な要素といえるでしょう。

6.人材育成できる環境を整える

介護の経験がなくても安心して仕事を始められる研修制度や、経験者がさらにスキルアップできるキャリアパスを整備することが、人材の育成と定着に不可欠です。資格取得支援制度を設けたり、外部研修への参加を奨励したりすることで職員の学びたい意欲をサポートし、組織全体の専門性を高めます。

さらに、メンター制度を導入し、新人が職場にスムーズに馴染めるようサポート体制を強化することも有効です。定期的なキャリア面談を実施し、個々のスキルや希望に合わせたキャリアプランをともに考え、長期的な成長を支援します。

また、eラーニングなどのオンライン学習コンテンツを充実させ、時間や場所を選ばずに学習できる環境を整備すると職員の自己啓発を促進し、組織全体の競争力向上につなげます。

介護業界が抱える課題の解決へ向けた国の取り組み

個々の事業所の努力だけでなく、国も介護業界が抱える構造的な課題を解決するため、多角的な政策を推進しています。ここでは、具体的な取り組みを紹介します。

【給与施策】介護職員の待遇

介護職員の給与水準を引き上げることは、人材確保における最重要課題の一つです。国は、介護報酬を通じて事業所に支払われる介護職員処遇改善加算などの仕組みを設け、賃金アップを後押ししています。

直近の2024年度介護報酬改定では、全体で1.59%のプラス改定となり、そのうち0.98%分が介護職員の処遇改善に充てられることになりました。これは、月額の賃金ベースで約2.5%の引き上げに相当し、国が人材確保に強い意志を持っていることの表れといえます。

施策名内容目的
介護職員処遇改善加算介護職員の賃金改善に充てることを目的に、介護報酬に上乗せされる加算賃金水準の向上、キャリアパスの整備
介護職員等特定処遇改善加算経験・技能のある介護福祉士等に対し、重点的な処遇改善を行うための加算リーダー級職員の処遇を改善し、若手の目標を示す
介護職員等ベースアップ等支援加算介護職員の収入を月額平均9,000円引き上げることを目的とした加算物価上昇等に対応し、基本的な賃金水準を底上げする

上記の加算制度を事業所が適切に活用し、職員に還元することが魅力ある職場作りにつながります。

参考:介護職員の処遇改善について

【制度改革】持続可能な介護保険制度への見直し動向

介護保険制度は社会情勢の変化に対応するため、3年ごとに見直し(改正)が行われます。制度の持続可能性を確保し、将来にわたって安定したサービスを提供し続けるためには、給付と負担のバランスを見直す議論が不可欠です。

2027年度以降の改正に向けて、現在以下のような点が主要な論点として議論されています。

検討項目内容
利用者負担2割の対象者拡大現在、一定以上の所得がある人のみ2割負担だが、その対象範囲を広げるかどうかが検討されている
ケアプラン作成の有料化現在は全額保険給付で自己負担がないケアプランの作成に、利用者負担を導入するかが議論されている
要介護1・2の軽度者への給付見直し訪問介護や通所介護といったサービスを、全国一律の介護保険給付から市町村が運営する総合事業へ移行するかが検討されている

上記の見直しは、利用者にとっては負担増につながる可能性もあります。しかし、限られた財源の中で制度を維持し、本当に支援が必要な人にサービスを届け続けるために、社会全体で考えていかなければならない重要な課題です。

不安を希望に|これからの介護職に求められるスキルとキャリアパス

介護業界が大きな変革期にある今、職員一人一人にも変化への対応が求められます。しかし、それは同時に新たなスキルを身につけ、キャリアの可能性を広げるチャンスでもあります。

これからの時代に活躍できる介護人材になるために、どのような視点が必要なのでしょうか。具体的には、以下のような例が挙げられます。

今後特に重要になるスキルなぜ重要か具体例
ICT・テクノロジー活用能力介護DXの進展により、ICT機器や介護ロボットの操作が必須の業務となるため介護記録ソフトの入力、見守りセンサーのアラート対応、オンラインでの多職種連携会議への参加など
マネジメント・リーダーシップ人材の多様化やチームケアの重要性が増す中で、チームをまとめ、後進を育成する能力が求められるため・ユニットリーダー、フロアリーダーとしてチームを牽引する
・新人職員への指導やOJTを担当する
多職種連携のコーディネート能力地域包括ケアシステムの推進において、医師、看護師、リハビリ専門職など他職種と円滑に連携し、利用者の情報をつなぐパイプとしての役割が重要になるため・サービス担当者会議での的確な情報提供を行う
・他職種と対等に意見交換し、利用者のための最適なケアを調整する

介護職のキャリアパスは、一つの施設で働き続けるだけではありません。経験と資格を活かして、多様な道に進むことが可能です。

キャリアアップの例必要な資格・経験(目安)仕事内容
ケアマネジャー(介護支援専門員)介護福祉士として実務経験5年以上など利用者の心身の状況や希望に応じたケアプランを作成し、サービス事業者との連絡調整を行う
生活相談員・支援相談員社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉主事任用資格など施設への入退所の手続き、利用者や家族からの相談対応、関係機関との連携などを行う
施設長・管理者認知症介護実践者研修修了など(施設種別による)施設の運営管理全般、職員の労務管理、収支管理、行政への対応などを行う
独立・起業豊富な実務経験と経営知識訪問介護事業所やデイサービス、コンサルティング会社などを立ち上げる

変化の時代だからこそ主体的に学び、スキルを磨くと、自分自身の市場価値を高めながらよりやりがいのあるキャリアを築けます。

梅沢 佳裕氏
梅沢 佳裕氏

介護業界の今後を考えるうえで重要なのは、介護ニーズの増加と人材確保の難しさが同時に進むという構造です。高齢化が進む一方で、介護を担う働き手は十分に増えておらず、事業所運営の負担はこれからさらに大きくなることが予想されます。このため、国は生産性向上や業務の効率化を強く求めており、記録の負担軽減、ICT活用、職員の働きやすさの向上などが重要なテーマになっています。また、地域で支え合う仕組みがこれまで以上に必要とされ、医療・介護・行政の連携が円滑に進む体制づくりも欠かせません。利用者の多様な暮らしを支えるためには、介護サービスが「量」を確保するだけでなく、「質」を安定して高め続けることが求められます。さらに、介護事業所は外部環境の変化に応じて柔軟に対応し、専門職としての判断力や組織的な支援体制を整えることが重要になります。このように、介護業界は変化の大きい時期にあり、現場力と組織力の双方を高めることが今後の鍵となります。

介護業界の今後をより良くする取り組みを実施しよう

介護業界は、超高齢社会という大きなうねりの中で、「2025年・2040年問題」という厳しい現実に直面しています。しかし、本記事で見てきたように、決して悲観的な未来だけを意味するものではありません。

課題が明確であるからこそ、国や自治体、多くの事業所が課題解決に向けて本気で動き出しています。変革の時代においてもっとも大切なのは、現場で働く私たち一人一人が変化を前向きに捉え、自らの専門性を高めていくことです。

介護は、人の人生に深く寄り添い、尊厳を支える、AIには決して代替できない崇高な仕事です。業界の未来を憂うだけでなく、その未来をより良いものにするための一員として、日々の学びと実践を続けていきましょう。その先に、きっと明るい展望が拓けているはずです。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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