【医療業界動向コラム】第147回 医療DX推進に関する新たな目標設定の考え方が示される

2025.07.15

令和7年7月1日、第7回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームにて、電子処方箋及び標準型電子カルテ等に関する新たな目標と今後の対応方針が示された。以前から言われているように、2030年に医療DXの環境整備を終えるという大目標に変更はないが、その進め方に修正が入った形だ。

電子処方箋、標準型電子カルテ、電子カルテ情報共有サービスの今後の目標と対応方針

まず、電子処方箋について確認してみるが、現状から見てみると、やはり病院での導入が進んでいない状況に変わりはない状況だ。(図1)

図1_電子処方箋の普及状況(※画像クリックで拡大表示)

こうした状況から、以下のように電子処方箋に関する新たな目標が設定された。

医療機関において電子処方箋の導入を進めるにあたっては、電子カルテが導入されていることが重要であるため、 電子処方箋の新たな目標では、電子カルテ/共有サービスと一体的な導入を進めることとし、「患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関への導入を目指す」。

標準型電子カルテについては、山形県の診療所でα版のモデル事業がスタートしている。α版は、診療録は紙ベースで、電子処方箋・医療情報の共有を電子的に行うものとなっている(図2)。いきなりすべてを電子化してからの対応よりハードルは低く、必要最低限の医療情報共有は利用できるというものだ。

図2_標準型電子カルテについて(※画像クリックで拡大表示)

標準型電子カルテについては、以下のように目標が設定された。

本格運用の具体的内容を 2025年度中に示した上で、必要な支援策の具体化を検討するとともに、2026年度中目途の完成を目指す。

そして電子カルテ情報共有サービスについてだが、電子カルテ導入済みの医療機関と未導入の医療機関、それぞれに合わせた対応策がとられることとなっている(図3)。以下にポイントを整理して記載する。

図3_電子カルテ・電子カルテ情報共有サ-ビスの普及について(※画像クリックで拡大表示)

<電子カルテ導入済の医科無床診療所:57,662施設>

  • オンプレミス型電子カルテの医科診療所(~約47,000施設)については、 次回システム更改時に、標準型電子カルテに準拠したクラウド型電子カルテへの移行を促す。
  • クラウド型電子カルテの医科診療所(約10,000施設~)については、 標準型電子カルテに準拠したクラウド型電子カルテ への移行を図りつつ、速やかな移行が困難な場合には、共有サービス/電子処方箋に対応したアップデートを推進する。

<電子カルテ導入済みの病院:4,638施設>

  • 共有サービス/電子処方箋管理サービスに対応するため、医療情報化支援基金を活用し、次回システム更改時のシステム改修を促す。
  • 特に、地域医療支援病院・特定機能病院等については、医療法改正法案において、共有サービスの体制整備に関する努力義務規定が設けられていることに鑑み、率先してシステム改修に取り組むことを促す。
  • その上で、病院の電子カルテシステム等の医療情報システムについて、カスタマイズ等による高コスト構造になっている 現行のオンプレミス型から、いわゆるクラウド・ネイティブなシステムへと移行するべく、国は、2025年度中目途に、標準仕様(基本要件)を策定することとしている。今後、国の標準仕様に準拠したクラウド・ネイティブなシステムが登場してきた段階で、順次、クラウド・ネイティブなシステムへの移行を進める。

<電子カルテ未導入の医科無床診療所:47,232施設>

  • モデル事業の結果を踏まえ、標準型電子カルテの改良を重ね、 2025年度中に本格運用の具体的内容について示した上で、2026年度中目途の完成を目指す。また、本格運用の具体的内容を示す。
  • 小規模な医療機関でも過度な負担なく導入が可能となるよう、2025年度中に、標準型電子カルテの要件(①共有サービス・電子処方箋への対応、②ガバメントクラウド対応が可能となる、マルチテナント方式(いわゆるSaaS型)のクラウド型サービス、③関係システムへの標準 APIの搭載、④データ引き継ぎが可能な互換性の確保等)を参考に、システム費用の抑制を目指して、 医科診療所向けの電子カルテの標準仕様(基本要件)を策定する。
  • 標準仕様(基本要件)に準拠した電子カルテの開発を民間事業者に促し、当該電子カルテを厚生労働省又は社会保険診療報酬支払基金等が認証する。また、認証された電子カルテと国の医療 DXの各サービスとは、クラウド間で連携できるようにする。

<電子カルテ未導入の病院:2,427施設>

  • 病院の電子カルテシステム等の医療情報システムについて、カスタマイズ等による高コスト構造になっている現行のオンプレミス型から、いわゆるクラウド・ネイティブなシステムへと移行するべく、国は2025年度中目途に標準仕様(基本要件)を策定する。
  • 既に電子カルテの導入を予定している病院については、導入時に、共有サービス・電子処方箋管理サービスへの対応を促す。

上記の対応を推進することとして、具体的な普及計画を 2026年夏までにとりまとめる方針だ。

今後の方針からは、医療DX推進体制整備加算にある医療機関の電子処方箋の導入・電子カルテ情報共有サービスの導入といった経過措置はしばらく継続するのではないかとも考えられる。そして、電子処方箋についてはすでにあるものなので、次回改定では処方箋料及び処方料の適正化と一般名処方加算の引上げなども組み合わせて、間接的に電子処方箋の導入にインセンテイブを与えるものなども考えられそうに感じる。今後の議論を注視しておきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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