訪問看護の24時間対応とは?制度の概要やメリット・デメリットを整理

2025.06.22

「訪問看護の24時間対応って、本当に必要なの?」
そう思われたことはありませんか?

高齢化が進む日本において、在宅療養を支える訪問看護の重要性はますます高まっています。

特に、24時間対応は、利用者様とそのご家族にとって、安心感を得られる大きな要素の一つです。

この記事では、「訪問看護 24時間対応」をキーワードに、24時間対応体制加算の概要から、メリット・デメリットまでわかりやすく解説します。

24時間対応体制の導入を検討されている事業者様はもちろん、より質の高い訪問看護サービスを提供したいと考えている方はぜひ参考にしてください。

訪問看護における24時間対応体制は義務?

訪問看護において、24時間対応体制の整備は義務ではありません。

しかし、在宅療養を支えるうえで、夜間や緊急時にも対応できる体制を望む声は多く、実際に整えている事業所も増えています。

24時間対応体制とは、利用者や家族がいつでも連絡を取れるよう、看護師が常時待機し、必要に応じて訪問を行う仕組みです。

この体制を導入している訪問看護ステーションは、「24時間対応体制加算」の診療報酬の加算を受けることができます。

加算を得るには、厚生労働省の定める基準を満たしたうえで、都道府県の指定を受けなければなりません。

なお、こうした体制を整えているステーションは「指定訪問看護ステーション」として認められており、一定の人員や設備、運営体制などの要件をクリアしています。

24時間体制は義務ではないものの、利用者の安心や満足度を高めるためには、選ばれる要素の一つとなるでしょう。

24時間対応体制加算の概要

訪問看護において24時間対応体制を整えている事業所は、一定の条件を満たすことで「24時間対応体制加算」を受けることができます。

これは、夜間や休日も含めて常時対応可能な体制を持つことへの評価として、診療報酬に上乗せされる制度です。

この加算は、利用者の安心感を高め、急変時にも速やかに対応できる体制を維持するための経済的支援として位置づけられています。

常時連絡が取れる体制を確保できれば、在宅療養中の不安や緊急搬送のリスクを軽減し、継続的で安定したケアの提供につながります。

具体的には、24時間365日体制での連絡・訪問対応が可能であることや、必要な人員配置などの基準をクリアしていることが条件とされます。

この基準を満たした訪問看護ステーションは、都道府県の指定を受けたうえで加算を申請できます。

算定要件と対象

24時間対応体制加算を算定するには、国が定める厳密な基準を満たす必要があります。

加算はすべての訪問看護利用者が対象となり得ますが、要件に沿った体制整備と本人または家族の同意が前提です。

まず大前提として、看護師などが常時連絡対応できる体制が求められます。

計画訪問に加えて、緊急時には適切な判断のもとで即時訪問ができる仕組みが必要です。看護職以外のスタッフが電話対応を行う場合は、対応方法や報告・記録手順が定められたマニュアルの整備が必須とされています。

さらに、以下のような勤務体制や技術的支援も求められます。

  • 夜間対応後の休息や勤務間隔の確保
  • 夜勤の連続回数制限(原則2回まで)
  • ICTやAIなどの活用による業務負担の軽減
  • 管理者による勤務体制の明示と記録の整備

上記要件を満たし、利用者・家族へ加算について説明し同意を得た場合に限り、加算が算定できます。

要件をさらに満たす取り組みがあれば、より高い加算(例:負担軽減策を講じている場合の6,800円)も認められます。

対象者全員に加算できるわけではなく「制度の理解」と「利用者の同意」が前提となる点を忘れずに確認しておきましょう。

加算の金額や算定方法

2024年度の診療報酬改定により、24時間対応体制加算の金額と評価方法が見直されました。
看護師の負担軽減策の有無に応じて加算額が変わる仕組みが導入されています。

改定前と改定後の違いをまとめると、以下のとおりです。

区分加算額(月1回)要件
改定前(~2023年度)6,400円24時間対応体制あり・利用者の同意
改定後①(負担軽減あり)6,800円以下の要件のうち2項目以上(※)
改定後②(負担軽減なし)6,520円24時間対応体制あり・利用者の同意

※2項目以上の要件(うちアまたはイのいずれかを含む)

ア:夜間対応翌日の勤務間隔の確保
イ:夜間対応の連続回数を2回までに制限
ウ:夜勤後の休日の確保
エ:勤務体制の工夫
オ:ICT・AIなどの活用
カ:電話相談担当者への支援体制の整備

上記のような取り組みを通じて、看護師の負担を軽減しつつ、持続可能な24時間対応体制の実現を図ることが求められています。

評価体系の見直しは、看護師の働き方を守りながら、質の高い在宅ケアを安定的に提供し続けるための仕組みです。

訪問看護の現場が無理なく24時間体制を維持するためにも、制度を正しく理解し、現場に即した取り組みを進めることが今後ますます重要になっていくでしょう。

参照:訪問看護ステーションにおける持続可能な24時間対応体制確保の推進①|厚生労働省

緊急時訪問看護加算と24時間対応体制加算の違い

訪問看護における緊急対応を評価する加算には、「緊急時訪問看護加算」と「24時間対応体制加算」の2つがあります。

一見似ていますが、評価される内容や算定のタイミング、保険の種類が大きく異なるため、それぞれを正しく理解する必要があります。

以下の表で違いを整理してみましょう。

項目緊急時訪問看護加算(介護保険)24時間対応体制加算(医療保険)
保険の種類介護保険医療保険
主な対象者要介護認定を受けている方医療保険で訪問看護を利用する方
2024年度の改定内容加算(Ⅰ):574単位/月
加算(Ⅱ):290単位/回
負担軽減の取組ありで6,800円/月、なしで6,520円/月
届出の必要性不要(ただし体制整備は必要)必須(地方厚生局への届出)
算定要件の一例・利用者または家族からの連絡に24時間対応できる体制
・計画外の緊急時訪問を必要に応じて行う体制
・利用者および家族への説明と同意
・ケアプランへの位置づけ
・夜間対応した看護師等への手当支給等
・利用者からの緊急の求めに応じた相談対応または訪問の実施
・利用者または家族からの電話等による連絡
・相談に常時対応できる体制
・計画外の緊急時訪問を必要に応じて行う体制
・利用者および家族への説明と同意
・看護師の負担軽減に資する複数の取組実施

同月に介護保険と医療保険の両方で訪問看護が行われた場合は、介護保険での加算が優先されます。

月の途中で保険が変更になった場合は、その月の初回訪問時点での保険に基づいて加算の適用が決まります。

いずれも、利用者が安心して在宅療養を継続できるようにするための大切な制度であるため、算定ルールや保険の取り扱いを正確に把握しておくことが大切です。

訪問看護における24時間対応のメリット・デメリット

訪問看護における24時間対応は、利用者様とそのご家族にとって、安心感を得られるだけではなく、訪問看護事業者にとってもさまざまなメリットをもたらします。

しかし、その一方で、デメリットも存在します。ここでは、24時間対応のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

訪問看護における24時間対応のメリット

24時間対応体制を整備することで、利用者様、ご家族、そして訪問看護ステーションにとって、多くのメリットが生まれます。

具体的なメリットには、以下のようなものが挙げられます。

  • 24時間対応体制加算
  • 在宅療養支援体制の強化
  • 他法人との差別化

それぞれ詳しく見ていきましょう。

24時間対応体制加算による収益性の向上

訪問看護において24時間対応体制の整備は、事業所にとって収益向上につながる可能性があります。

対応体制の構築には一定の負担があるものの、加算制度を活用すればそのコストを一定程度補うことができます。

2024年度の診療報酬改定では、24時間対応体制加算が見直されました。

現在は、看護師の業務負担軽減の取り組みを行っている場合に【月額6,800円】、そうでない場合でも【月額6,520円】の加算が認められています。

例えば、10人の利用者が対象となれば、月あたり最大で約68,000円の収入増となり、年間に換算すれば約81万円にのぼります。

体制整備には、シフト管理や緊急対応マニュアルの整備、スタッフ間の連携体制づくりなどが必要になりますが、こうした準備に見合うだけの加算が設けられているのが現行制度の特徴です。

在宅療養支援体制の強化

24時間対応体制は、単に一事業所の取り組みにとどまらず、地域全体の在宅療養支援体制を支える重要な要素でもあります。

高齢化が進む中、病院から在宅へとケアの中心が移る今、切れ目のない看護提供体制の整備が求められています。

在宅療養支援体制の強化は、地域包括ケアシステムの中でも重要な取り組みとして位置づけられています。

制度的にも加算や評価が進んでいる背景には、医療と介護の中間支援としての訪問看護の役割が期待されていることがうかがえます。

在宅療養を選ぶ人が増える中、24時間対応体制の整備は、地域全体の支援力を高める要となるでしょう。

他法人との差別化

24時間対応体制を導入すれば、他法人との差別化が図れます。

なぜなら、夜間や休日を含めた常時対応ができる体制は、訪問看護ステーション選びの重要な判断材料となるからです。

利用者や家族は、「何かあったときにすぐ連絡できるか」「緊急時にも対応してもらえるか」を重視する傾向にあります。

特に、退院後すぐのタイミングや、重度の慢性疾患・終末期などのケースでは、24時間対応の有無がサービス選定に直結する場面も多くあります。

医療機関やケアマネジャーからの紹介時においても、「24時間対応可」と明記されていることは、信頼性や対応力をアピールする強みになるでしょう。

訪問看護における24時間対応のデメリット

24時間対応体制加算の算定には、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じる必要があります。

具体的なデメリットは、以下のとおりです。

  • オンコール体制による精神的負担
  • 応募者数が限られている
  • 給与面での課題

対策を講じるためにも、具体的なデメリットを確認していきましょう。

オンコール体制による精神的負担

24時間対応体制の導入には、多くの利点がある一方で、オンコール体制による精神的な負担もデメリットの一つです。

看護師が心身ともに休みにくくなる背景には、「いつ呼び出されるか分からない待機勤務」があります。

オンコールとは、夜間や休日に利用者や家族から連絡が入った際に備え、自宅などで待機する勤務形態です。

実際に対応が必要かどうかにかかわらず、常に連絡に備える状態が続くことで、緊張感やストレスを抱えやすくなります。

具体的には、次のような負担が挙げられます。

  • 連絡があるかもしれない不安から、十分に眠れない
  • 休日や夜間も遠出や外出を控えるなど、行動が制限される
  • 心身の緊張が続き、休息した実感が得られにくい
  • 家族との時間に集中できない
  • 頻度が高い場合、慢性的なストレスや離職のリスクが高まる

オンコール体制は24時間対応を支えるうえで欠かせない仕組みですが、スタッフへの負担を考慮した設計が必要です。

交代制や回数制限などを取り入れ、無理のない運用体制を検討しましょう。

応募者数が限られている

24時間対応体制を導入している事業所では、看護師の採用において応募者数が限られる傾向があります。

オンコール対応や夜間待機が業務内容に含まれることで、応募時点で「働き方に不安を感じる」人が一定数いるからです。

特に子育て中の看護師や、プライベートとの両立を重視する人にとっては、24時間体制の勤務形態は敬遠されやすい傾向があります。

実際に以下のような理由で、採用が困難になるケースがあります。

応募時に「オンコールの有無」を気にする人が多い

  • 勤務条件がネックとなり、面接まで至らない
  • 経験者でも24時間体制を理由に辞退する
  • 働き方改革の流れと合わず、求人の訴求力が下がる

24時間対応体制の導入はサービスの質向上につながる一方で、採用活動においては慎重な設計が求められます。

応募者に業務内容を丁寧に説明し、可能な範囲で柔軟な働き方を提示するなどの工夫が、安定的な人材確保のためには必要です。

給与面での課題

24時間対応体制の導入は、訪問看護ステーションにとって大切な取り組みですが、その負担に見合う給与が支払われていないと感じる職員も少なくありません。

オンコール待機や夜間対応には、精神的・身体的な負担がともないますが、加算による増収があっても、それがスタッフ一人ひとりの給与に反映されるとは限りません。

訪問件数や日中業務の評価と比べ、オンコール対応の報酬は「曖昧」「少額」といった声も聞かれます。

よくある現場の課題としては、以下のようなものがあります。

  • オンコール手当が一律で、対応回数に応じた差がない
  • 実際に呼び出しがあっても、手当が増えない場合がある
  • 加算分がどこに充てられているのかが不透明

給与面での課題はスタッフの不満や離職リスクにつながる可能性もあるため、加算収入の活用方法や報酬設計の見直しが求められます。

体制を持続可能なものとするためにも、現場の声を反映した運営体制が必要です。

斉藤 圭一氏
斉藤 圭一氏

訪問看護において、24時間対応体制の整備は義務ではありませんが、利用者様とそのご家族が、夜間や緊急時を含め、いつでも必要な時に相談・対応してもらえるという安心感を得られます。それにより、在宅での療養生活における不安が軽減され、より質の高い、途切れないケアの提供に繋がります。本稿は、訪問看護における24時間対応体制加算の概要、算定要件、金額、緊急時訪問看護加算との相違点、導入のメリット・デメリットを多角的に考察しており、制度理解を深める上で有用です。
特筆すべきは、2024年度診療報酬改定における看護師の負担軽減策と加算額の関連性を明示している点です。
一方で、オンコール体制の精神的負担、人材確保、給与面といった運営上の課題も指摘されており、加算算定のみならず、質の高いサービス提供と職員の働きがいを両立させるための視点が不可欠であることが示唆されています。

まとめ|24時間対応体制加算を適切に算定し、利用者と事業者の双方にメリットを

この記事では、訪問看護における24時間対応体制について、その必要性から、体制加算の概要、メリット・デメリットまで解説してきました。

24時間対応体制は、利用者様とそのご家族にとって、安心感と質の高い在宅療養を支える上で重要な役割を果たします。

緊急時の対応はもちろん、日々の不安や疑問にも寄り添える体制は、信頼関係を築き、より良い療養生活を送るための基盤となります。

一方で、24時間対応体制の構築と維持は、訪問看護ステーションにとって、オンコール体制の負担、人材確保の難しさ、給与面での課題など、決して容易ではありません。

しかし、24時間対応体制加算を適切に算定し、質の高いサービスを提供すれば、利用者様と事業者の双方にとってメリットのある体制を構築が可能です。

本記事でご紹介した情報を参考に、24時間対応体制加算の算定要件をしっかりと理解し、導入を検討しましょう。

訪問看護の24時間対応体制は、利用者様とそのご家族の生活を支えるだけではなく、訪問看護ステーションの発展にもつながる取り組みです。

ぜひこの記事を参考に、24時間対応体制の構築と質の向上に努め、地域社会に貢献していきましょう。

監修:斉藤 圭一

主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)

神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

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