訪問看護のリハビリ減算とは?減算が設置される背景や対策など解説
2025.06.22

訪問看護におけるリハビリテーションは、 利用者のQOL(生活の質)を向上させるうえで不可欠な取り組みです。
しかし、 適切に提供しないと意図せずリハビリ減算の対象となってしまうケースも少なくありません。
リハビリ減算に限らず、減算は経営に影響を与えるだけでなく、 利用者へのサービス提供にも影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、 訪問看護におけるリハビリ減算の概要・具体的な算定要件・対策などについて解説します。
自施設の収益を確保しつつ、より良いサービスを提供する際のヒントにしてください。
目次
訪問看護のリハビリ減算の概要

本章では、訪問看護ステーションにおけるリハビリ減算について解説します。
訪問看護リハビリ減算は、リハビリテーションの質と効率性を評価するために導入された制度です。
この制度を理解することは、適切なサービス提供と経営の安定化に不可欠です。
適切に対応するためにも、訪問リハビリ減算の概要を正確に理解しましょう。
訪問看護のリハビリ減算とは
訪問看護のリハビリ減算とは、訪問看護ステーションが提供するリハビリテーションサービスにおいて、一定の条件を満たさない場合に、算定されるべき報酬が減額される制度です。
具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のようなリハビリ専門職による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えている場合に適用されます。
この減算は、リハビリテーションが過剰に偏ることを防ぎ、看護サービスとのバランスの取れた提供を促すことが目的です。
減算額は、リハビリ訪問1回あたり8単位と定められています。
ただし、緊急時訪問看護加算や特別管理加算などの特定の加算を算定している場合は、この減算が適用されないケースもあります。
参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
訪問看護のリハビリ減算が設けられた背景
訪問看護のリハビリ減算が設けられた背景には、以下の要因が考えられます。
サービスの質の向上 | リハビリテーションと看護の連携を強化し、利用者にとってより包括的で質の高いサービス提供を目指すため。 |
過剰なリハビリテーションの抑制 | リハビリ専門職による訪問が過多になる傾向を是正し、利用者の状態やニーズに合わせた適切なサービス提供を促進するため。 |
医療費の適正化 | 介護保険制度における医療費の適正な利用を促し、持続可能な制度運営を目指すため。 |
過去には、リハビリ専門職の訪問回数が多くなることで、利用者のニーズが十分に反映されないケースも見受けられました。
そのため、減算制度は、訪問看護を提供する事業者にとって、訪問の計画やサービスの質を見直す契機にもなります。
2024年度の介護報酬改定では、この減算ルールの適用基準が厳格化され、事業所ごとの計算がさらに求められるようになりました。
これにより、各施設は利用者ごとの訪問回数の管理を徹底する必要が生じるうえに、場合によっては事業運営の戦略も見直さざるを得なくなります。
リハビリテーションマネジメント加算と訪問看護リハビリ減算の関係
訪問看護リハビリ減算と、リハビリテーションマネジメント加算は密接な関係にあります。
リハビリテーションマネジメント加算は、質の高いリハビリテーションを提供するために計画作成・多職種連携・目標設定などの取り組みを評価する加算です。
一方、訪問看護リハビリ減算は、リハビリテーションが過剰に偏ることを防ぎ、看護サービスとのバランスの取れた提供を促すための減算です。
この2つは一見すると相反するように見えますが、質の高い訪問看護リハビリを提供するためには、両方の制度を理解し、適切に対応することが重要です。
リハビリテーションマネジメント加算を算定しつつ、訪問看護リハビリ減算の対象とならないように、バランスの取れたサービス提供を心がける必要があります。
訪問看護のリハビリ減算の算定要件

訪問看護のリハビリ減算の算定要件は以下のとおりです。
算定要件 | 詳細 |
訪問回数の割合 | 当該訪問看護ステーションにおける前年の4月から当該年の3月までの期間において、リハビリ専門職による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えている場合。 |
減算単位数 | リハビリ専門職による訪問看護費から8単位を減算。 |
緊急時訪問看護加算等の未算定 | 前年の4月から当該年の3月までの期間の看護職員の訪問回数がリハビリ専門職による訪問回数以上である場合であっても、算定日が属する月の前6月間において、緊急時訪問看護加算(Ⅰ)・緊急時訪問看護加算(Ⅱ)・特別管理加算(Ⅰ)・特別管理加算(Ⅱ)・看護体制強化加算(Ⅰ)および看護体制強化加算(Ⅱ)のいずれも算定していない場合は、リハビリ専門職等の訪問看護費から8単位を減算する。 |
適用時期 | 令和6年度に減算する場合は、令和5年度の訪問回数の実績に応じ、令和6年6月1日から令和7年3月31日までの間で減算することとし、令和7年度以降は前年度の訪問回数の実績に応じ、翌年度4月から減算とする。 |
厚生労働省の解釈通知
厚生労働省はリハビリ減算について、以下のようなQ&Aを提示しています。
質問 | 回答 |
理学療法士等が連続して2回の訪問看護を行った場合はどのように数えるのか。 | 理学療法士等が連続して2回の訪問を行った場合は、1回と数える。 |
前年度の理学療法士等による訪問回数はどのように算出するのか。 | 居宅サービス計画書、訪問看護報告書および訪問看護記録書等を参照し、訪問回数を確認すること。 |
前年度の理学療法士等による訪問回数には、連携型の定期巡回・随時対応型訪問介護看護による訪問回数は含まれるか。 | 含まれる。 |
訪問看護のリハビリ減算の対策

訪問看護リハビリ減算を回避し、質の高いリハビリを提供するためには、以下の対策が重要です。
- リハビリテーション計画書の質向上
- 多職種連携の強化と情報共有の徹底
- 適切な人員配置と研修制度の充実
- 利用者への丁寧な説明と同意
上記の対策を講じることで、減算リスクを低減し、利用者にとって最適なリハビリテーションを提供できます。
リハビリテーション計画書の質向上
リハビリテーション計画書は、利用者の目標達成に向けた指標となる重要な書類です。
質の高い計画書を作成することで、リハビリの方向性が明確になり、効果的なサービス提供につながります。
以下の点に注意して、計画書の質を向上させましょう。
利用者のニーズと目標を明確に記載する | 利用者や家族の意向を丁寧に聞き取り、具体的な目標を設定します。目標は、短期目標と長期目標に分け、達成度合いを定期的に評価できるように測定可能な目標にすることが望ましいです。 |
リハビリテーションの内容を具体的に記載する | どのようなリハビリを、どのくらいの頻度で、どのような方法で行うのかを具体的に記載します。利用者様の状態に合わせて、最適なリハビリテーションを選択し、その根拠を明確にすることが重要です。 |
多職種との連携を意識した内容にする | 医師や看護師、ケアマネジャーなど、多職種との情報共有を密に行い、それぞれの専門性を活かした計画を作成します。多職種が連携することで、利用者の全体的なQOL(生活の質)向上に貢献できます。 |
定期的な見直しと修正を行う | 利用者の状態は常に変化するため、計画書も定期的に見直す必要があります。目標の達成度合いや、新たなニーズの出現に合わせて、柔軟に計画を修正していくことが大切です。 |
質の高いリハビリテーション計画書は、減算を防ぐだけでなく、利用者のモチベーション向上にもつながります。
目標達成に向けた進捗状況を共有することで、利用者はリハビリに積極的に取り組むようになり、より良い結果が期待できます。
多職種連携の強化と情報共有の徹底
多職種連携を強化し、情報共有を徹底することで、より質の高いサービスの提供が可能です。
訪問看護リハビリテーションは、多職種が連携して利用者をサポートするチーム医療の一環です。
以下の点に注意して、連携を強化しましょう。
定期的なカンファレンスの実施 | 医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ケアマネジャーなどが集まり、利用者の状態やリハビリの進捗状況について情報交換を行います。カンファレンスを通じて、それぞれの専門的な視点から意見を出し合い、最適なケアプランを策定します。 |
情報共有ツールの活用 | 電子カルテや情報共有システムなどを活用し、利用者の情報をリアルタイムで共有します。これにより、多職種がいつでも最新の情報を確認でき、スムーズな連携が可能です。 |
積極的なコミュニケーション | 電話・メール・チャットなどを活用し、日々の業務の中で積極的にコミュニケーションを取ります。小さな変化や気になる点があれば、すぐに情報共有し、迅速に対応することが大切です。 |
合同研修の実施 | 多職種合同で研修を実施し、それぞれの専門性や役割について理解を深めます。互いの専門性を尊重し、協力体制を築くことで、より質の高いサービスを提供できます。 |
多職種連携は、利用者により良いサービスを提供するだけでなく、スタッフの負担軽減にもつながります。
それぞれの専門性を活かし、協力し合うことで、より効率的な業務遂行が可能になり、質の高いケアを提供するための余裕が生まれます。
適切な人員配置と研修制度の充実
質の高い訪問看護リハビリを提供するためには、適切な人員配置と研修制度の充実が不可欠です。
スタッフのスキルアップを図り、最適な人員配置を行うことで、利用者へのサービス向上につなげられます。
以下の点に注意して、人員配置と研修制度を充実させましょう。
資格や経験に応じた人員配置 | 利用者の状態やニーズに合わせて、適切な資格や経験を持つスタッフを配置します。例えば、重度の障がいを持つ利用者には、経験豊富な理学療法士や作業療法士を配置するなど、専門性を考慮した人員配置が重要です。 |
OJT(On-the-Job Training)の実施 | 経験豊富なスタッフが、新人スタッフに対して、実務を通して指導・教育を行います。OJTを通じて、新人スタッフは実践的なスキルを習得し、早期に戦力として活用できます。 |
Off-JT(Off-the-Job Training)の実施 | 外部研修やセミナーへの参加を推奨し、スタッフの専門知識やスキルアップを支援します。最新の知識や技術を習得することで、より質の高いサービスの提供が可能です。 |
資格取得支援制度の導入 | 認定理学療法士や認定作業療法士など、専門資格の取得を支援する制度を導入します。資格取得を奨励することで、スタッフのモチベーション向上につながり、専門性の高い人材育成を促進できます。 |
適切な人員配置と研修制度の充実は、サービスの質はもちろん、スタッフの定着率向上にもつながる対策です。
スタッフにスキルアップの機会を提供し、働きがいのある環境を整備することで、優秀な人材を確保できます。
利用者への丁寧な説明と同意
訪問看護リハビリを提供する際には、利用者に対して丁寧な説明を行い、十分な理解と同意を得ることが重要です。
利用者が納得してサービスを受けることで、リハビリへの意欲が高まり、より良い結果が期待できます。
以下の点に注意して、説明と同意を行いましょう。
リハビリテーションの目的と内容を分かりやすく説明する | なぜリハビリが必要なのか、どのような効果が期待できるのかを、専門用語を使わずにわかりやすく説明します。利用者がリハビリの意義を理解することで、積極的に取り組むようになります。 |
リハビリテーション計画書の内容を丁寧に説明する | 計画書に記載されている目標やリハビリの内容、頻度などを丁寧に説明し、利用者の同意を得ます。計画書の内容について疑問や不安があれば、遠慮なく質問できる雰囲気を作り、丁寧に対応することが大切です。 |
リスクや副作用についても説明する | リハビリテーションには、転倒や疼痛などのリスクや副作用が伴う場合があります。これらのリスクについて、事前に丁寧に説明し、利用者の理解を得ることが重要です。 |
同意書を作成する | 説明内容に同意を得られたら、同意書を作成し、署名・捺印をもらいます。同意書は、利用者がサービス内容を理解し、同意したことを証明する重要な書類となります。 |
利用者への丁寧な説明と同意は、信頼関係を築くうえで重要です。
利用者との信頼関係が深まることで、よりスムーズなサービス提供が可能になり、利用者の満足度向上につながります。
減算リスクを事前に把握・分析
訪問看護リハビリ減算のリスクを事前に把握し、分析することで、適切な対策を講じられます。
以下の点に注意して、リスクの把握と分析を行いましょう。
過去の訪問実績の分析 | 過去の訪問実績を分析し、リハビリ専門職と看護職員の訪問回数のバランスを確認します。リハビリ専門職の訪問回数が過剰になっている場合は、訪問計画を見直す必要があります。 |
算定要件の確認 | リハビリテーションマネジメント加算など、加算の算定要件を再度確認し、算定漏れがないように注意します。算定要件を満たしているにもかかわらず、算定していない場合は、速やかに対応する必要があります。 |
最新情報の収集 | 介護保険制度は頻繁に改正されるため、常に最新情報を収集し、変更点に対応する必要があります。厚生労働省のホームページや、介護保険関連の情報を発信するサイトなどを定期的に確認し、情報をアップデートしましょう。 |
専門家への相談 | 減算リスクの把握や分析が難しい場合は、専門家(社会保険労務士や介護保険コンサルタントなど)に相談することも有効です。専門家のアドバイスを受けることで、より的確な対策を実施できます。 |
減算リスクを事前に把握し、分析することは、経営の安定化を目指すうえで不可欠です。
リスクを最小限に抑え、安定的な収入を確保することで、質の高いサービス提供を継続できます。

本記事では、私たち訪問看護ステーションの実務者にとって避けては通れないリハビリ減算という課題について解説しており、大変参考になるのではないでしょうか。リハビリ専門職による訪問が看護職員の訪問回数を超えた場合に適用されるこの減算は、サービス提供のバランスを促す一方で、発生すればステーションの経営に重大な影響を及ぼします。特に2024年度の介護報酬改定では基準が厳格化されたため、その算定要件を正確に理解し、対策を講じることが喫緊の課題です。記事で具体的に示された計画書の質向上、多職種連携、適切な人員配置、利用者への丁寧な説明、そしてリスクの事前分析といった取り組みは、減算回避と同時に、利用者様主体の質の高いリハビリテーション提供を実現するための重要な指針となります。常に最新情報を確認し、チームで意識を共有しながら、減算リスク管理と質の向上に繋げましょう。
リハビリ減算に注意して質の高い訪問看護リハビリを提供しよう

訪問看護リハビリ減算は、訪問看護ステーションにとって重要な課題です。
リハビリ減算の算定要件を意識し、適切なリハビリテーションを提供すれば、利用者のQOLの向上につながります。
一方、リハビリ減算が発生すると施設の収益に重大な影響をおよぼします。
そのため、減算が発生しないように対策を講じる必要があります。
また、リハビリ減算をはじめ、加算・減算は介護報酬改定によって算定要件などが変更される場合があるため、注意が必要です。
介護報酬改定があった際は、必ず内容を確認し、サービスの提供方法や体制を見直しましょう。
必要があれば、専門家に相談することがおすすめです。

監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。